第11回
28話~30話
2018.01.29更新
【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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28 軍隊内の道理と規律が勝敗を左右する
【現代語訳】
戦争をうまく行う者は、正しい道理を修めて軍をよくまとめ、軍の法制や規則をよく守らせる。
だから思いのままに勝敗を決することができる。
【読み下し文】
善(よ)く兵(へい)を用(もち)うる者もの)は、道(みち)(※)を修(おさ)めて法(ほう)(※)を保(たも)つ。故(ゆえ)に能(よ)く勝敗(しょうはい)の政(まつりごと)を為(な)す。
- (※)道……ここでの「道」については、第一章・計篇2話にある五つの基本事項の中の「道」と同じくとらえ、正しい道理で(立派な政治をして)軍隊もよく治めること、と解するのが一般的である。本書もそのように解するが、そこまで考える必要はない(唐突すぎる)として、直前に述べてきた勝敗を分ける道理を指すとする説もある。
- (※)法……軍隊の法制や規則と解するのが通説で、本書も孫子のいいたいことはそうであると考える。なお、ここの法については単に形篇で論じる兵法と解する説もある。
【原文】
善用兵者、修衜而保法、故能爲勝敗之政、
29 必ず勝つために考えておくべき五つのこと
【現代語訳】
戦争の原則として考えておかなくてはならない五つのことがある。
第一は度(たく)(ものさしではかること)。
第二は量(りょう)(ますめではかること)。
第三は数(すう)(数ではかること)。
第四は称(しょう)(比較してはかること)。
第五は勝(しょう)(勝敗をはかること)。
戦場となる土地では、その広さや距離を考える「度」という問題が出て、度の結果で投入すべき軍の物資、兵器の「量」という問題が生じ、量の結果について投入すべき兵士の「数」という問題が生じ、数の結果については、敵と味方の戦力を比較してはかる「称」という問題が生じ、称の結果については、勝敗をはかる「勝」という問題が生じる。
このように勝利する軍隊というのは、重い鎰(いつ)(二十両、約三百二十グラム)のおもりで軽い銖(しゅ)(一両の二十四分の一、つまり鎰の四百八十分の一)のおもりを比べるようなもので、勝利するのは当然であり、敗北する軍隊は、軽い銖のおもりで重い鎰のおもりを比べ、張り合おうとするようなものだから、まったく勝ち目はないことになる。
【読み下し文】
兵法(へいほう)(※)は、一(いち)に曰(いわ)く度(たく)、二(に)に曰(いわ)く量(りょう)、三(さん)に曰(いわ)く数(すう)、四(し)に曰(いわ)く称(しょう)、五(ご)に曰(いわ)く勝(しょう)。地(ち)は度(たく)を生(しょう)じ、度(たく)は量(りょう)を生(しょう)じ、量(りょう)は数(すう)を生(しょう)じ、数(すう)は称(しょう)を生(しょう)じ、称(しょう)は勝(しょう)を生(しょう)ず。故(ゆえ)に勝兵(しょうへい)は鎰(いつ)(※)を以(もっ)て銖(しゅ)を称(はか)るが若(ごと)く、敗兵(はいへい)は銖(しゅ)を以(もっ)て鎰(いつ)を称(はか)るが若(ごと)し。
- (※)兵法……昔からの兵法、戦争の原則のこと。
- (※)鎰……二十両とする説と二十四両とする説がある。一両は約十六グラム。
【原文】
兵法、一曰度、二曰量、三曰數、四曰稱、五曰勝、地生度、度生量、量生數、數生稱、稱生勝、故勝兵若以鎰稱銖、敗兵若以銖稱鎰、
30 必勝の形
【現代語訳】
勝利する者が、民(軍隊に入っている国民兵士)をして戦わせるのは、満々とためた水を一気に深い谷底に落とすようなものであって、これが必勝の形というものである。
【読み下し文】
勝者(しょうしゃ)の民(たみ)を戦(たたか)わしむるや、積水(せきすい)を千仞(せんじん)(※)の谿(たに)に決(けっ)するが若(ごと)き者(もの)は、形(かたち)なり。
(※)千仞……「仞」は深さ、高さをはかる単位で、約一・六メートル。「千仞の谿」とはとても深い谷底のこと。
【原文】
勝者之戰民也、若決積水於千仞之谿者、形也、
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