第21回
58話~60話
2018.02.13更新
【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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58 敵をこちらの意のままに動かす
【現代語訳】
こうして外国の諸侯をこちらの考えているように屈服させるには害になることを示し、諸侯を使役するには手を出さざるをえない魅力があることを示し、諸侯を奔走(ほんそう)させるにはその利益を示すのである。
そこで戦争で兵を動かす原則としては、敵がやってこないことを頼みとするのではなく、いつ敵がやってきてもよいように備えていることを頼みとするのである。そして、敵が攻撃してこないことを頼みとするのではなく、敵が攻撃できないような態勢をとっていることを頼みとするのである。
【読み下し文】
是(こ)の故(ゆえ)に諸侯(しょこう)を屈(くっ)する(※)者(もの)は害(がい)を以(もっ)てし、諸侯(しょこう)を役(えき)する者(もの)は業(ぎょう)を以(もっ)てし、諸侯(しょこう)を趨(はし)らす者(もの)は利(り)を以(もっ)てす。故(ゆえ)に用兵(ようへい)の法(ほう)は、其(そ)の来(き)たらざるを恃(たの)むこと無(な)く、吾(わ)れの以(もっ)て待(ま)つ有(あ)るを恃(たの)むなり。其(そ)の攻(せ)めざるを恃(たの)むこと無(な)く、吾(わ)れの攻(せ)むべからざる所(ところ)有(あ)るを恃(たの)むなり。
(※)諸侯を屈する……諸侯、つまり、「周りの外国を屈服させる」の意味だが、ここでは外国の国々(仮想敵国)をこちらの意のままに動かすということであろう。
【原文】
是故屈諸侯者以害、役諸侯者以業、趨諸侯者以利、故用兵之法、無恃其不來、恃吾有以待也、無恃其不攻、恃吾有所不可攻也、
59 将軍が注意すべき五つの危険
【現代語訳】
将軍にとって五つの危険がある。
かけ引きもしなくて、ただ必死に戦うことしかしない者は殺されることになる。
生き延びることしか考えずに、命を懸けて戦わない者は捕虜になる。
短気で怒りっぽい者は挑発されて計略に引っかかる。
廉潔すぎる者は侮辱されることによって罠わなにかかる。
兵や民を愛しすぎる者はその面倒を見ることで苦労させられることになる。
この五つのことは将軍の陥りやすい過ちであり、戦争をする上での災いとなる。
軍隊を滅ぼし、将軍を死に致らしめるのは、必ずこの五つの危険のどれかによるので、十分に注意しなくてはならない。
【読み下し文】
故(ゆえ)に将(しょう)に五危(ごき)有(あ)り。必死(ひっし)は殺(ころ)され、必生(ひっせい)は虜(とりこ)にされ、忿速(ふんそく)(※)は侮(あなど)られ、廉潔(れんけつ)は辱(はずかし)められ、愛民(あいみん)(※)は煩(わずら)わさる。凡(およ)そ此(こ)の五者(ごしゃ)は、将(しょう)の過(あやま)ちなり、用兵(ようへい)の災(わざわ)いなり。軍(ぐん)を覆(くつがえ)し将(しょう)を殺(ころ)すは、必(かなら)ず五危(ごき)を以(もっ)てす。察(さっ)せざるべからざるなり。
- (※)忿速……短気。気が短く怒りっぽい。
- (※)愛民……民を愛すること。人民、国民を大切に思うこと。なお、この「民」を「兵士」と解する説もある。私は、ここでは「人民と兵士」の両方を意味するものと解したい。
【原文】
故將有五危、必死可殺也、必生可虜也、忿速可侮也、廉潔可辱也、愛民可煩也、凢此五者、將之過也、用兵之災也、覆軍殺將、必以五危、不可不察也、
第九章 行軍篇
60 山地における軍の原則
【現代語訳】
孫子は言った。およそ軍の駐留と敵情についての判断は次のようになる。
山地を行くときは、飲料水や飼料の草のある谷に沿って進み、見通しのよい高地を見つけて軍隊を駐留させる。
敵が高地にいるときは、こちらから山を登る形で戦ってはならない。
これが山地における軍の原則である。
【読み下し文】
孫子(そんし)曰(いわ)く、凡(およ)そ軍(ぐん)を処(お)き敵(てき)を相(み)るに、山(やま)を絶(た)つ(※)には谷(たに)に依(よ)り、生(せい)を視(み)て(※)高(たか)きに処(お)り、隆(たか)きに戦(たたか)いて登(のぼ)ること無(な)かれ。此(こ)れ山(やま)に処(お)るの軍(ぐん)なり。
- (※)絶つ……「絶」はここでは「越」の意味。「絶(わた)る」と読む人もいる。
- (※)生を視て……「生」は「高み」の意味だが、「見通しのよいところ」「視界の開けたところ」あるいは「安全なところ」と解する説もある。
【原文】
孫子曰、凢處軍相敵、絕山依谷、視生處高、戰隆無登、此處山之軍也、
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