第37回
106話~108話
2018.03.07更新
【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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106 火攻めと兵の動かし方
【現代語訳】
火攻めは必ず先の五種類の中から行い、火攻めの変化に応じて兵を動かす。
味方の間諜や敵の内応者によって、敵陣の中から火が上がった場合は、すばやくそれに呼応して外から攻撃をしかける。
しかし、火が上がっても敵が静まっているときは攻めずに待機して様子を見、さらに火が強くなってから、敵のようすを見つつ、攻めてよければ一気に攻め、まずいようであれば攻撃を止めるようにする。
外から火をかけて攻撃できそうであれば、敵陣内からの火を待つことなく、時を見はからって火を放つようにする。
火が風上から燃え出したならば、風下から攻めてはいけない。昼間の風が長く吹いたときは、夜に止むことが多いことも注意しておきたい。
およそ軍では、必ず先に述べた五種類の火攻めの方法があることを知って、その術(用法)を守らなくてはならない。
【読み下し文】
凡(およ)そ火攻(かこう)は、必(かなら)ず五火(ごか)の変(へん)に因(よ)りてこれに応(おう)ず。火(ひ)、内(うち)に発(はっ)すれば(※)、即(すなわ)ち早(はや)くこれに外(そと)に応(おう)ず。火(ひ)、発(はっ)して兵(へい)静(しず)かなる者(もの)は、待(ま)ちて攻(せ)むること勿(な)く、其(そ)の火力(かりょく)を極(きわ)め、従(したが)うべくしてこれに従(したが)い、従(したが)うべからざるして止(や)む。火(ひ)、外(そと)より発(はっ)すべくんば、内(うち)に待(ま)つこと無(な)く、時(とき)を以(もっ)てこれを発(はっ)す。火(ひ)、上風(じょうふう)に発(はっ)すれば、下風(かふう)を攻(せ)むること無(な)かれ。昼風(ちゅうふう)は久(ひさ)しく、夜風(やふう)は止(や)む。凡(およ)そ軍(ぐん)は必(かなら)ず五火(ごか)の変(へん)有(あ)るを知(し)り、数(すう)(※)を以(もっ)てこれを守(まも)る。
- (※)火、内に発すれば……味方の間諜(スパイ)や敵の中にいるこちらの内応者が火を放ち、火が上がること。
- (※)数……術のこと。ここでは、いろいろな確かな術を身につけておき、効果のよい火攻めをすることの重要性を説いている。
【原文】
凢火攻、必因五火之變而應之、火發於內、則早應之於外、火發兵靜者、待而勿攻、極其火力、可從而從之、不可從而止、火可發於外、無待於內、以時發之、火發上風、無攻下風、晝風久、夜風止、凢軍必知有五火之變、以數守之、
107 火攻めは知恵ある者がうまくやるもの
【現代語訳】
このように火を用い、攻撃の助けとするのは、聡明な知恵によるものであり、水を用い、攻撃の助けとするのは、強大な兵力によるものである。ただ水は、敵を孤立させることはできるが、敵の城を奪い取ることはできない。
【読み下し文】
故(ゆえ)に火(ひ)を以(もっ)て攻(こう)を佐(たす)くる者(もの)は明(めい)(※)なり。水(みず)を以(もっ)て攻(こう)を佐(たす)くる者(もの)は強(きょう)(※)なり。水(みず)は以(もっ)て絶(た)つべくして、以(もっ)て奪(うば)うべからず(※)。
- (※)明……明察。聡明。知恵。なお、これを「明らか」「顕著」と解する説もある。しかし、文章の流れからすると本文のように解するのがよいと思われる。
- (※)強……強大。ここでは「兵力が強大だ」と解される。なお、「効果が強大」とする説もある。強大な兵力の必要があるのは、水攻めには長期間かかること、多くの資材、人員、兵糧などがいることからである。
- (※)奪うべからず……敵の城を奪うこと。敵の戦力と解釈する説もある。なお、豊臣秀吉は、水攻めを得意とし、敵を無傷のまま降伏させた(備中高山城攻めなど)。しかし、これは例外であり、一般的には難しい戦法だったようだ。
【原文】
故以火佐攻者朙、以水佐攻者强、水可以絕、不可以奪、
108 戦争目的を達成できない戦いには意味がない
【現代語訳】
そもそも戦いに勝ち、敵を攻撃して奪い取っても、戦争目的を達成できず、無駄な戦争を続けることは凶(よくないこと)である。これを費留という。
ゆえに賢明な君主はこのことをよく考え、優れた将軍はこのことをよくわきまえている。だから利益にならなければ軍隊を用いず、戦争目的を達するためでないと軍隊を用いない。危険が迫っていなければ戦いはしない(国家の危急、存亡の機のときでなければ軍隊を用いた戦いはしない)。
【読み下し文】
夫(そ)れ戦勝(せんしょう)攻取(こうしゅ)して、其(そ)の功(こう)を修(おさ)めざる(※)者(もの)は凶(きょう)なり。命(なづ)けて費留(ひりゅう)(※)と曰(い)う。故(ゆえ)に曰(い)わく、明主(めいしゅ)はこれを慮(おもんばか)り、良将(りょうしょう)はこれを修(おさ)む。利(り)に非(あら)ざれば動(うご)かず、得(う)るに非(あら)ざれば(※)用(もち)いず、危(あや)うきに非(あら)ざれば戦(たたか)わず。
- (※)修めざる(不修)……この原文を「不隋」あるいは「不随」とする説もある。その場合は「追いかけない」の意味となる。とすると「戦争目的を追求しないで」と解釈することになる。
- (※)費留……無駄な費用をかけて軍隊が駐留すること。
- (※)得るに非ざれば……本項では「戦争目的を達するためでなければ」と解釈したが、他にも「勝つためでなければ」などと解する説もある。いずれにしても孫子の「戦争は国の大事である」(第一章・計篇1話)の考えと対応しているところである。
【原文】
夫戰勝攻取、而不修其功者凶、命曰費留、故曰朙主慮之、良將修之、非利不動、非得不用、非危不戰、
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