第40回
115話~117話
2018.03.12更新
【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら
115 反間(逆スパイ)
【現代語訳】
必ず(戦う前から)こちらの情報を探りに来ている敵の間諜を見つけ出し、その者に利益を与えて、味方の方に誘い込むようにする。こうして反間として用いることができる。
この反間によって敵の情報がよくわかり、郷間(因間)も内間も得ることができ、それらをうまく使えるようになる。
この反間によって敵の情報がよくわかり、それによって死間に偽りのことを行わせ(でっちあげさせ)、偽りの情報を敵に告げさせることができる。
この反間によって敵の情報がよくわかり、生間を予定通り帰ってこさせて報告を受けることもできるのである。
【読み下し文】
必(かなら)ず敵人(てきじん)の間(かん)の来(き)たりて我(われ)を間(かん)する者(もの)を索(もと)め、因(よ)りてこれを利(り)し、導(みちび)きてこれを舎(しゃ)(※)にし、故(ゆえ)に反間(はんかん)を得(え)て用(もち)うべきなり。是(こ)れに因(よ)りてこれを知(し)る。故(ゆえ)に郷間(きょうかん)・内間(ないかん)得(え)て使(つか)うべきなり。是(こ)れに因(よ)りてこれを知(し)る。故(ゆえ)に死間(しかん)誑事(きょうじ)を為(な)して、敵(てき)に告(つ)げしむべし。是(こ)れに因(よ)りてこれを知(し)る。故(ゆえ)に生間期(せいかんき)の如(ごと)くならしむべし。
(※)舎……他家に身を寄せること。ここでは敵国から寝返り、味方になることをいう。
【原文】
必索敵人之閒來閒我者、因而利之、導而舍之、故反閒可得而用也、因是而知之、故鄕閒內閒、可得而使也、因是而知之、故死閒爲誑事、可使吿敵、因是而知之、故生閒可使如期、
116 反間を厚遇する
【現代語訳】
五種類の間諜の活用によって、君主は必ず敵の情報を知ることができるようになるが、そうした情報を知るためには必ず反間が最も重要な存在となる。だから反間は必ず厚遇しなくてはならない。
昔、殷(いん)王朝が天下を治めるようになったのは、伊摯(いし)(殷王国建国の功労者)が、倒すべき夏王朝の中枢に間諜として入り込んでいたからである。また、後に周王朝が天下を治めるようになったのは、呂牙(りょが)が(周王朝建国の功労者)が、倒すべき殷王朝の中枢に間諜として入り込んでいたからである。
【読み下し文】
五間(ごかん)の事(こと)、主(しゅ)必(かなら)ず(※)これを知(し)る。これを知(し)るは必(かなら)ず反間(はんかん)に在(あ)り。故(ゆえ)に反間(はんかん)は厚(あつ)くせざるべからざるなり。昔(むかし)、殷(いん)(※)の興(おこ)るや、伊摯(いし)(※)、夏(か)(※)に在(あ)り。周(しゅう)(※)の興(おこ)るや、呂牙(りょが)(※)、殷(いん)に在(あ)り。
- (※)主必ず(主必)……一九七二年に発見された竹簡本には「主」の字がない。となると「君主や将軍は」と主語を少し広くすることになる。確かに前との整合性はこちらのほうがすっきりすると考える。
- (※)殷……紀元前一七〇〇年ごろ、湯(とう)が建国した王朝。
- (※)伊摯……「伊尹(いいん)」とも呼ばれる。「摯」は名、「尹」は官名。
- (※)夏…… 禹(う)が建国し、十七代続いた王朝。殷の湯王により滅ぼされた。
- (※)周……紀元前一一〇〇年ごろ、武王が建国した王朝。
- (※)呂牙……太公望・呂尚(りょしょう)のこと。単に太公望としても有名。
【原文】
五閒之事、主必知之、知之必在於反閒、故反閒不可不厚也、昔殷之興也、伊摯在夏、周之興也、呂牙在殷、
117 間諜は戦争の要(かなめ)
【現代語訳】
そういうわけで、ただ聡明な君主と賢明な将軍だけが、優れた知恵を持つ者を間諜として敵国に送り込め、必ず大きな功績を成し遂げることができるのである。この間諜が戦争の要であり、全軍はそれを頼りに動くのである。
【読み下し文】
故(ゆえ)に惟(た)だ明君(めいくん)賢将(けんしょう)のみ能(よ)く上智(じょうち)(※)を以(もっ)て間(かん)と為(な)す者(もの)にして、必(かなら)ず大功(たいこう)を成(な)す。此(こ)れ兵(へい)の要(かなめ)にして、三軍(さんぐん)の恃(たの)みて動(うご)く所(ところ)なり。
(※)上智……優れた知恵。優れた知恵を持つ人。なお、上智大学の「上智」はキリスト教で重視するsophia(ソフィア)=真の知恵を訳したもの。
【原文】
故惟朙君賢將、能以上智爲閒者、必成大功、此兵之要、三軍之所恃而動也、
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く