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第15回

本田美和子氏インタビュー②

2020.01.14更新

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 科学ジャーナリストが見た、注目のケア技法「ユマニチュード」の今、そして未来。『「絆」を築くケア技法 ユマニチュード』刊行を記念して、本文の第1章と、日本における第一人者・本田美和子氏インタビューを特別公開! 全18回、毎週月曜日(祝日の場合は火曜日)に更新します。
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Q 最初にジネスト氏に会った印象はどうでしたか。

A 先生の連絡先はPubMedという米国の医学論文図書館システムで見つけました。メールをすると「ペルピニャンに来るように」と返事をいただきました。ペルピニャンってどこだろうと思いました。調べると地中海に面した町だということがわかり、楽しみにして行きました。パリで飛行機を乗り換え、小さな空港に到着しました。他の乗客はすぐに迎えに来ていた人と話をしていましたが、1人だけ携帯電話でメッセージを読んでいる男性がいました。赤いオーバーオールを着ていました。多分その人なんだろうと思い、近づいていくと「本田さんですか」と聞かれました。
 どんな方か知らなかったのでびっくりしました。自由な雰囲気のアーティストのような風貌。お召し物も。でも優しい笑顔と温かい雰囲気がとても印象的で、安心しました。
 それからの2週間はマレスコッティ先生、ジネスト先生と一緒にさまざまな町を移動しながら過ごしました。お2人とも、ともかく優しくてオープンマインドでした。お2人は私をユマニチュードを導入している病院や施設に連れて行ってくださり、そこで行われている研修を見学するプログラムを組んでくださっていたのです。施設の施設長、ケアのリーダー、ケアをしている人、出会う人すべてに対してじっくりと話を聞き、問題がないか確かめ、自分の経験にもとづき論理的なアドバイスをしていらっしゃることに感銘を受けました。
 私がフランス語が話せないので、マレスコッティ先生は仏英辞典を片手に英語で一生懸命説明しようとしてくださいました。ジネスト先生は英語が堪能な息子さんに休みを取ってもらい、2週間同行する手はずを整えてくれました。どこに行っても、私に病院の先生方や施設長や看護部長と面談の機会をつくってくださって、みなさん率直にフランスの医療の仕組みやケアで困っていることを話してくれました。私が自己紹介を何度かしているうちに、息子さんがその内容を覚えてくれて代わりに紹介してくれるようになりました。みなさんの心の優しさに感銘を受けました。

Q 帰国後、ジネスト氏を日本に招待したのですね。

A フランスに行く前に、東京医療センターで仕事をすることが決まっていました。東京医療センターでは、研修医として学んだときの先輩方が総合内科の運営をしていました。先輩の先生方も、高齢の患者が増え、提供したい医療を受け取ってもらうためには何かが必要だと感じていました。「検査と薬だけじゃ患者を治せなくなっている。新しいことを一緒にやらないか」と誘っていただき、嬉しくなって、東京医療センターで働くことにしたのです。
 私は、アメリカでせん妄の予防プログラムを学び、それを日本で普及させたいと考えていました。ベッドサイドにボランティアが赴いてコミュニケーションをとることでせん妄を防ぐHospital Elder Life Program(HELP)というプログラムです。職場の先輩はこのプログラムにも興味を寄せてくださっていました。何より高齢者医療に理解の深い方々と仕事をすることができる、素晴らしい機会をいただいたので、喜んで赴任することにしました。
 異動の直前に休みがまとまって取れたので、さきほど申し上げたいきさつで、フランスに行くことになりました。そこで、ユマニチュードの効果を目の当たりにしたのですが、こちらの方がより早く、やりたいと思っていたことができるのではないかと感じました。というのも、せん妄の予防プログラムHELPではボランティアを組織して実践するので、ボランティアを常に募集し、トレーニングを行って、毎日のシフトを組んでいくということが必要で、運営のための専任のマネージャーを必要とします。一方、ユマニチュードはすでに職場で働いている専門職にトレーニングをすることで実践が可能だからです。さらに日本に戻ってきて、看護師さんたちに話をすると多くの看護師さんが興味を持ってくれました。みんな困っていたからなんです。ぜひ勉強したいという希望を聞いて、日本でもやれるといいな、と思いました。
 ジネスト先生の娘さんが渋谷に行ってみたいというので、うちから近いですよ、とお招きしたところ、ジネスト先生、マレスコッティ先生も一緒に来てくださることになり、日本で初めての講演会を2012年1月に開きました。それを聴いた看護師さんたちがさらに興味を寄せてくれました。
 それからまもなく、アメリカのピッツバーグでHELP学会があり、私は看護師さんたちを連れて参加しました。ジネスト先生に学会のことをお話ししたところ、先生も興味を持たれ、フランスからピッツバーグに来られました。学会の合間に観光に行こうと話をしていたら、看護師さんの1人から「ジネスト先生がいらしているなら観光ではなく日本で講演してくれたケアを教えてもらえませんか」との希望があり、ホテルの部屋でユマニチュードの動きについて学ぶことになりました。3時間ほど教えていただいたのですが、ジネスト先生が「この人たちはどういう人たちなのか」と尋ねられました。「ごく普通の看護師さんですよ」と答えたら、少し教えただけで理解をしているとジネスト先生が驚かれました。それで日本で教えるのは悪くないかもしれないと思ってくれたようなのです。
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著者

大島寿美子/イヴ・ジネスト/本田美和子

【大島寿美子(おおしま・すみこ)】 北星学園大学文学部心理・応用コミュニケーション学科教授。千葉大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了(M.Sc.)、北海道大学大学院医学研究科博士課程修了(Ph.D)。共同通信社記者、マサチューセッツ工科大学Knight Science Journalism Felloswhipsフェロー、ジャパンタイムズ記者を経て、2002年から大学教員。NPO法人キャンサーサポート北海道理事長。 【イヴ・ジネスト】 ジネスト・マレスコッティ研究所長。トゥールーズ大学卒業。体育学の教師で、1979年にフランス国民教育・高等教育・研究省から病院職員教育担当者として派遣され、病院職員の腰痛対策に取り組んだことを契機に、看護・介護の分野に関わることとなった。 【本田美和子(ほんだ・みわこ)】 国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターを経て2011年より現職。

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