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イヤな気分をパっと手放す「自分思考」のすすめ 他人にも感情にも振り回されない方法 元自衛隊の臨床心理士 玉川真理

第4回

「使えるエネルギーは有限」と肝に銘じる

2017.07.18更新

読了時間

【 この連載は… 】 自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。

 

イヤな気分を飼い慣らせば心の免疫力がアップする

 私の言うイヤな気分というのは、ブルーな気分、専門的には抑うつ状態のことです。

 抑うつ状態とは簡単に言えば「落ち込みが長く続く状態」ですが、抑うつ状態の人と、うつ病と診断される人の状態は、ある部分は一緒、ある部分は違います。

 抑うつ状態のときでも、ひとつのことにとらわれる「視野狭窄」が起きたり、人に援助を求められなくなったり、弱くなりすぎて依存的になる傾向があるのは、うつと一緒です。

 でも、小さな抑うつ気分を何度も何度も経験して、それを糧にするぐらいの気持ちでいると、ひどいうつにはならないものです。

 たとえば、ほとんど風邪をひいたことのない人が急にインフルエンザになると、すごく大変です。「寒いのに急に汗が出てきた、これは放っておいていいものなのか?」「このまま死ぬんじゃないか?」などと、すごく不安になりますよね。

 でも、何回も風邪を経験している人や、私のように毎年のようにインフルエンザにかかっている人には、だいたいどんな経過をたどるかがわかるし、去年はこうだった、その前の年はこうだったと覚えているので、あわてないで済みます。

 心に関しても同じです。小さな抑うつを味わって「こうしてみたらこうだった」というデータを蓄積しておくと、とても役に立つのです。

 人にはいろいろ怖いものがあります。

 本当にうつになったらどうしようとか、働けなくなったらどうしようとか。

 でも、私たちが立ち向かうべき究極のゴールは、「自分の死」です。

 その死と立ち向かうための備え、言い換えれば「死と向き合うための心の成長」が必要になってくるのです。

 それにはいろいろなことを想定して、そのとき自分はどうするかを考えてみることも役に立ちます。

 自分の死の前に、大切な人の死に遭遇することもあります。

 「私の究極の怖いものって、自分の死以外には何だろう」と考えたら、それは娘の死でした。でも「そうなったら私は尼さんになろう」と思った瞬間に、「ああ、なんとかなるかな」と思えました。

 娘が死んだら私にとってそれ以上のダメージはないので、あとは神の世界にすがって生きるしかない、奉仕者として何も考えずに無にして生きようと思ったのです。それまでは、人間らしく息をさせていただこうと思います。

 もちろん、そういう究極の事態だけでなく、日常の中でよくあることを想定するのも役立ちます。これはクライアントさんにもおすすめしていることのひとつです。

 「また同じようなことがあったらどうですか?」

 「この人がこういうことをしたらどうしますか」

 「あなたがこういう立場だったらどうですか」

 そんなふうに投げかけて、自分で考えてもらいます。それが次のときへの備えになるし、「また同じような状態になっても自分は回復できる」という安心感にもつながります。

「使えるエネルギーは有限」と肝に銘じる

 イヤな気分(抑うつ状態)から、その先のうつまでいかないようにするには、何に気をつけたらいいですか?

 そんな質問を受けることがあります。

 ひとついえるのは、「自分に無限のエネルギーがあるかのように、自分以外の人のことにエネルギーを使いすぎない」ということです。

 先日、広島から東北へ、それから東京の何カ所かを回って日帰りするという、ものすごく無茶なスケジュールで動いたことがありました。どうしても次の日に中学生の相談にのりたかったので無理をしたのです。

 広島に帰り着いて駅から私の家までは、歩けば15分ぐらい。でも、クタクタだったのでタクシーに乗ろうかどうしようか悩みました。

 ワンメーターの距離ですが、うちには節約家の夫がいるので、その夫を喜ばせるためには歩いて帰ったほうがいいかな、「よく頑張ったね」って言われるかもしれないなどと、変な考えが頭をよぎりました。

 でも、次の瞬間考え直しました。

 「いやいや、私は明日学校に行きたいから帰ってきたのよね。無理をして明日寝込むのと、600円ぐらいのお金を使って、明日元気に学校に行くのとどっちがいいだろう。それは600円使うことだろう。よし、乗ろう」と思って、タクシーに乗りました。

 そう思えたことですごく救われた気がして、心から「ありがとう」を言いながらタクシーに乗ったのです。

 人間のエネルギーは有限なので、それを何に使うか、どうするのが自分にとってお得なのかを、しっかり考えて生きていかないといけません。

 自分をないがしろにすると、かえって人に迷惑をかけることになります。

 私が変にプライドを持って、無理して歩いて帰って、次の日ダウンして休んだら学校も損をするし、私も損をするし、約束していた中学生も嫌な気持ちになりますよね。

 そこをしっかり考えて選択し、行動していくと、自分のエネルギーを有効に使えるようになっていくと思います。

 人のことを優先して考えがちな人ほど、行動に迷ったときは一度立ち止まって、いちいち根拠を考えていくといいのです。「このほうが自分にとってお得で、結局は人にとってもお得だから、こうしよう」というふうに。

 それによって自分のエネルギーが枯渇するのを防げるし、「こういうとき、こういう行動を選んで、こういうふうによかった」という自分の経験を人に伝えて、役立ててもらうこともできるのです。

「自分の経験が必ず誰かの役に立つ」と思うこと

 私が言う「行動を選ぶときの根拠」というのは、別の言い方をすると、「すべての経験は誰かに役立ててもらうためのネタだ」という考え方です。「自分が今まで苦しんで考えたことは、すべて人の役に立つ」と思って生活することだと思います。

 私と会った人にはみんな、そういうふうに説いて聞かせています。

 「あなたたちみんな、本が書けるのですよ。『大変でもなんとかなるよ。こうやったらよかったよ』という題名の本が。今、うつになっているのはラッキーだと思いましょう。うつになってどれだけ苦しくて、何をやったのか、何をやったらどうなったのか。よかったことも悪かったことも全部、書いておいたほうがいいよ」と言っています。

 生きている間には何回も、何回も大きな壁にぶつかるものです。

 自分が考えてやってきたことの記録は、次に壁にぶつかったときの糧にもなるし、後輩とか、自分の大切な人にも伝えることができます。

 子どもたちが困ったときに、「お父さんやお母さんにはこんなこともあったけれども、こうやったらこうなったよ」と話すことができます。

 そういうわけで、私のまわりのうつから回復し始めた人たちは、自分の経験からマニュアルを作る作業、つまり「自分マニュアル作り」をやっています。

 次に会ったときには、自分のほうから「こんなふうにやってみたら、こんなにうまくいった」とか、「うまくいかなかったこともあるけれど、こう考えてみた」と話してくれます。私のほうも「すごいね!それいいから私にもパクらせてね」と言ったりして、盛り上がります。

 そして多くの人が、「今度は人のため自分の経験を生かしたい」と言い始めます。

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著者

玉川 真里

元自衛隊の臨床心理士。NPO法人ハートシーズ理事長。1973年岡山県生まれ。1991年に陸上自衛隊に入隊。女性初の大砲部隊野外通信手として活躍する。2008年、陸上自衛隊において現場初の臨床心理士として、最も自殺率の高い職業といわれる自衛隊の自殺予防対策を任される。より多くの人の心を救済したいとの思いから自衛隊を辞め、資産をすべて投入してNPO法人を設立。年間2000件を超える相談を受けている。著書に『もう、「あの人」のことで悩むのはやめる』(サンマーク出版)、『折れない 凹まない 振り回されない “心のクセ”を変える6つの方法』(大和出版)がある。

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