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イヤな気分をパっと手放す「自分思考」のすすめ 他人にも感情にも振り回されない方法 元自衛隊の臨床心理士 玉川真理

第5回

こんな「省エネ」ができる人はうつになりにくい

2017.07.25更新

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【 この連載は… 】 自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。

 

こんな「省エネ」ができる人はうつになりにくい

 うつになりにくいタイプというのはあります。

 どちらかというといい加減で、マイペースな人です。

 そして、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で新垣結衣さんが演じた役のように、「小賢しい」くらいがいいのです。

 あのキャラクターは、仕事をする上では「報酬がこれくらいならこういうやり方をして効率を上げよう」というふうに、計算もちゃんとしていました。あれはエネルギー量の計算だと思います。それができないと何でも全力でやってしまい、エネルギーを使いすぎてしまうので、計算は必要です。

 かつての私は、すごく生き急ぐタイプでした。そして仕事に慣れてきたり、ちょっといいことが続くと自分を格好よく見せようとしたりして、ものすごくムダなエネルギーを使っていました。そして、そういうときに何かトラブルに巻き込まれるか、病気になります。それでポキッと鼻を折られるのです。

 今も計算がうまくできないのでオーバーワークになってしまいますが、インフルエンザで寝込んだ後に東京で取材を受ける予定があったので、「ここに全力を使うために、いかにそれ以外のことを省エネするか」という実験をしてみました。

 どんなことをしたかというと、羽田空港の動く歩道に、じっと立ったまま乗ってみたのです。普段は絶対にそんなことはしないでタタタッと歩いていくほうなのですが、目をつぶってゴールまでゆっくりしようと思ってそうしてみました。

 そうしたら、それで人に迷惑がかかることもないし、「この時間、ちょっとゆっくりできる」と実感しました。体力を温存することができたのです。

 歩くスピードも、今回は絶対に自分が一番楽なペースで歩こうと思いました。スマホを持ってキャリーケースを引いて歩いていれば、まわりは「都内の人じゃないな」とわかってくれるから配慮もしてもらえるだろうと、本当に亀のようなペースで歩いてきました。

 そうしたら、疲れが全然違うのです。今まで自分はどれだけムダにエネルギーを使ってきたのだろうと思いました。

 東京での仕事というミッションのために、いかに早く体を回復させるか、その中でどれだけ得られるものがあるか。数日間、四六時中そういうことを考えていて、とても面白かったのです。

 ミッションは大事です。ミッションという言葉からは、生きていく使命みたいな大きなものを想像する人も多いかもしれませんが、それとは別に、私たちの日常には短期的なミッションが次々とやってきます。

 それを忘れないこと、「今のミッションは何だろう」「自分がしたいことはなんだろう」と意識することが大切です。

 エネルギーをそこに注ぎ、それ以外は省エネをしないと心身ともに疲れてしまいます。何にでもエネルギーを注ぐわけにはいかないのです。

 公務員や会社員の方で、ずっと安定的にお金をもらうということが一番だと思っている人なら、「定年までいかにリスクを減らして、エネルギーを使わずに生きていくか」がポイントになるので、どうしたらそれができるか考えいけばいいわけです。

 今は何が必要で、どこにエネルギーを注ぐべきかを常に考えていれば、うつにはなりにくいものです。

 そこに集中していて、無駄なことにはエネルギーを使わないからです。

「命軸」で考えるとほとんどの悩みは小さい

 悩みを抱えて私のところへ来る方に、私はよくたずねます。

 「それで死にますか?」

 「……いえ、死にません」

 「はっきり言って、あなたの考えている悩みは小さいです!」

 すごく申し訳ない言い方をしていると思いますが、相手の方には「あまりにもはっきり言われるので気持ちよく受け止められる」と言われます。

 「それで死にますか?」は、私にとってはごく普通の質問です。

 「命軸で考えてみると、今の悩みは意外に小さいことなんだ」と気づくことが多いので、そこを考えてもらえるように質問するわけです。

 さらに私は自分の体験をまじえて話します。

 「詐欺師に引っかかって、ガムテープでグルグル巻きにされて、暴力をふるわれた上に刃物を見せられ、『死ぬかもしれない』という状況になれば、それは怖いですよ。でも今、そういう状況に置かれているわけではないですよね。そういうふうに、これは命に危険があるのか?という『命軸』で考えることはすごく大切なのです」

 私が命軸にこだわるのには、成育歴が大きく関係しています。

 幼い頃から、身近な人の死をたぶん人よりも多く経験していること。

 私自身が、アルコール依存の父から暴力を受け続けてきたこと。

 十代の頃には包丁を持った父に何度も襲われ、「殺さなければ私が殺される」と思いつめ、ゴルフクラブの1番が置いてある場所をいつも確認して、次にやられそうになったらこれで殴ろうと思っていたのです。もちろん、危機感だけでなく、そんなふうに考えてしまうことへの自責感も強かったです。

 だから、私の原点には「生き延びることの難しさ」があります。

 そういう環境だったので、家から逃げるために入った自衛隊は、私にとって非常に安全な所でした。理不尽に殺されることはないし、安全管理も非常にしっかり守られている組織ですから。そうは言っても武器を扱ったりしますから、命の危機とつねに背中合わせで、やはりみんな必死でそこと向き合って頑張るわけです。

 では今の社会はどうかというと、一般にすごく安全ですよね。だから小さいこと、取るに足らないことに目が向いてしまうのです。

 いろいろと想定して、「では、今自分がとらわれていることは大きいか小さいか。究極、死ぬようなことか?」と聞かれると、大きく見えていた悩みがしぼんでいくのです。「死ぬ、殺される」以外は小さいことだとわかるのです。

 ただ、小さいことではあっても、放っておくとイヤな気分が高じて深刻になることもあります。そうならないために、普段から自分の弱い部分と向き合っていくことが大切です。それによって心が鍛えられて、いざというときに力を出せるし、ひいてはうつの予防にもなります。

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著者

玉川 真里

元自衛隊の臨床心理士。NPO法人ハートシーズ理事長。1973年岡山県生まれ。1991年に陸上自衛隊に入隊。女性初の大砲部隊野外通信手として活躍する。2008年、陸上自衛隊において現場初の臨床心理士として、最も自殺率の高い職業といわれる自衛隊の自殺予防対策を任される。より多くの人の心を救済したいとの思いから自衛隊を辞め、資産をすべて投入してNPO法人を設立。年間2000件を超える相談を受けている。著書に『もう、「あの人」のことで悩むのはやめる』(サンマーク出版)、『折れない 凹まない 振り回されない “心のクセ”を変える6つの方法』(大和出版)がある。

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