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叢のものさし 小田康平

第15回

叢の空間植栽 明福寺 前編

2019.04.19更新

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【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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完成した庭の一部。ジャングルをイメージした植栽。違和感を取り入れることで植物同士にコントラストが付き主張し合う。一見、熱帯系の植物が密集しているように見えるが、使用しているすべての植物に耐寒性があり難なく冬を越す。

 

植物単体の個性や生長の過程を経た成果物のみを見せるだけではなく、ここからの連載では、実在する「造園」のプロセスを記していこうと思う。クライアントとの出会いから、依頼、植物探し、打ち合わせを経て植込みをし、完成に至るまでの記録。

今回は、東京・江戸川区の浄土宗 明福寺での造園依頼に対するプロセスを紹介する。明福寺は嘉禄2(1226)年に縁起する由緒正しい寺で、福井徹人住職がクライアントとなる。

福井住職とは、寺を新築したばかりで、庭をどうしようかと考えていたタイミングで知人から「叢」の名前を聞いたのがきっかけ。都内での叢の装飾や、イベントを見てもらい、依頼をいただくことになった。住職曰く「私の中に『叢』がどんどん侵植(食)をはじめました(笑)。会うべきタイミングで引き寄せた縁だと思っています」

住職にお会いしたときに初めて出された植栽イメージは、スリランカを代表する建築家ジェフリー・バワの写真集だった。その中には休むことを知らない鬱蒼と茂るジャングルの力強い植物や、石や木肌を所狭しと覆うツタやコケ類の写真がたくさんあった。依頼サイドから写真集などでイメージを伝えてもらえるのは直接的でとても話が早くなる。場合によっては氷点下にもなる江戸川区でどこまでイメージを形にできるかが、今回の植栽のテーマだった。植栽を手がける場合、一つひとつの植物を決めていき配置する方法と、全体を一つの空間として調和と違和感のバランスをとりながら作り上げていく方法がある。庭が広ければ広いほど後者の作り方がものを言うようになってくる。

800年も続く寺の庭で100年単位の植物の将来を思い描きながら、植物探しで全国各地を回ることになった。僕の植物探しはカタログや電話で発注することはなく、生産現場で1本1本と向き合い、現場の光や風を考えながらパズルを組み合わせていく手法。バワの植物をイメージしながら産地をひたすら歩いた。

[ 次号へ続く ]

福井徹人住職が影響を受けた建物や風景をレクチャー。

敷地を見ながら打ち合わせ。

植栽に使用するため、寺が所蔵している石を選定する。

明福寺敷地。

福井徹人56歳、浄土宗明福寺住職。地域における寺院を中心にした教育福祉のあり方をバランスのよい総合施設ビジョンを持って推し進める全国的にも稀有な存在。

 

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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