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全文完全対照版 老子コンプリート 野中根太郎 訳

第44回

立戒第四十四

2019.02.06更新

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日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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立戒第四十四

44 足るを知れば辱(はずかし)められず、止まるを知れば殆(あや)うからず

【現代語訳】

名誉と身体とでは、どちらが大切なのであろうか。身体と財産とでは、どちらが重要なのであろうか。得ることと失うことでは、どちらが苦しいだろうか。
名誉や財産をあまりにも愛しすぎると、必ず大いにそれらを消費することになり、名誉や財産を多く蓄えすぎると、必ずそれらをひどく失うことになる。
足るということを知っていれば、屈辱を受けることはない。欲をかきすぎずに踏み止まることを知っていれば、危険に遭うことはない。そのようにすればいつまでも安全に長らえられるのである。

【読み下し文】

名(な)と身(み)と孰(いず)れか(※)親(した)しき、身(み)と貨(か)と孰(いず)れか多(まさ)れる。得(う)ると亡(うしな)うと孰(いず)れか病(うれい)ある。
是(こ)の故(ゆえ)に甚(はなは)だ愛(あい)せば必(かなら)ず大(おお)いに費(つい)え、多(おお)く蔵(ぞう)すれば必(かなら)ず厚(あつ)く亡(うしな)う。
足(た)るを知(し)れば辱(はずかし)められず(※)、止(とど)まるを知(し)れば殆(あや)うからず。以(もっ)て長久(ちょうきゅう)なるべし。

  • (※)孰れか……「どちらか」という選択を問う疑問詞。
  • (※)足るを知れば辱められず……いわゆる「知足の計」で、次の句は「止足(しそく)の計」とも呼ばれる。聖德第三十二、辯德第三十三、儉欲第四十六参照。本章の老子の立場は、『論語』の名誉や国家を重んじる立場と比較し、国家、社会よりは個人(自分)、外よりは内を重んじる立場であると論じられることが多い。なお、孔子は、財産、地位、名誉などは誰もが欲しがるものであることを認めているが、正しい生き方(仁の生き方)で、得なければ意味はないとする(拙著『全文完全対照版 論語コンプリート』里仁第四など参照)。

【原文】

立戒第四十四

名與身孰親、身與貨孰多。得與兦孰病。
是故甚愛必大費、多藏必厚亡。
知足不辱、知止不殆、可以長久。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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