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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第18回

中学校の課外授業

2018.07.31更新

読了時間

【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
「目次」はこちら

中学校の課外授業

 ときどき、講演をさせていただく機会があります。主催者は、自治体だったり、企業だったり、病院だったり、学校だったりとさまざまです。
 2016年の初めに、群馬県の中学校で課外授業の講師をしてもらえないかという話が舞い込みました。「WITH ALS」のホームページで僕の「LIFE LOG」を観てくださった学校の先生が、「ALSという病気について、生徒たちに話をしてほしい」とお声をかけてくださったのです。
 未来を担う子どもたちに直接メッセージを送れることはうれしいこと、ぜひやらせていただきたいとお答えしました。ただ、「ALSがいかに大変でつらい病気か」という話だけを伝えたくはないと同時に思いました。
 ネットでALSについて調べていたとき、「自分がこの病気だったら」と思うと気持ちが暗く沈んでしまうような情報にたくさん出合いました。「こんなにネガティブな話ばかりではなく、もう少し希望のもてるような情報が欲しいなあ」とすごく思ったんです。
 そのため、自分はウェブで発信するときも、講演の機会を与えていただいたときも、できるだけ前向きで希望の湧くような話をしたいと心がけてきました。
 では中学生にはどういう話をしたらいいのか。どういう内容だったら、関心をもってもらえるのか。
 僕自身を振り返ってみると、中学生の頃というのは、自分と関係があると思えることでなければ、あまり興味がもてなかったような気がしたのです。中学生にとって「自分事」と思えることは何だろう?いろいろ考えてみました。
 そして思いついたのが、「自分の今と、未来は確かにつながっている」ということを教えてあげることではないかと思ったのです。
 大人はよく「夢をもちなさい」と言います。だけど、中学生である自分の今と、その夢とをどうやって結びつけていったらいいのか、そこってけっこうわからないと思いませんか?
 そこに、橋を架けてあげるような話をしたらどうだろうか。
 今やっていることと将来がつながっていると思えれば、自分が社会を変えていく力になれるんだという意識ももてるようになります。
 たとえばALSのような難病や障害のある人に対しても「今、自分にできることは何だろう?」という発想で向き合ってもらえるようになるんじゃないか、そう考えたわけです。
 先生にご提案すると、共感していただけました。
 そこで、僕はこれを「LIFE DESIGN」を考える授業と名付け、パワーポイントで資料を作って授業に臨む準備をしました。

「心から好きだ」と思えることは何?

 僕は、中学1年生の生徒たちに問いかけました。
「みんなが今、『心から好きだ』って言えるものは何ですか?」
「何の話が始まるの?」という感じでみんなザワザワッとしました。
 僕はスライド資料を見せながら、話しはじめました。

「では、僕が好きなものを紹介しましょう。
 まず、映画。小さい頃から映画が大好きで、ディズニー映画なんかをたくさん観て、育ちました。
 音楽も大好きです。友だちとバンドを組んでいたこともありました。
 ファッション、カッコいい洋服も大好きです。
 新しいテクノロジーも好き。新しいツールとかスマホアプリとか、今までなかった新しい技術が出てくるとワクワクします。
 それから、人にサプライズを仕掛けるのも好きです。
 みんなが集まるイベントも大好き。
 まだまだいろいろありますけど、とりあえずこのくらいにしておきます。
 こんな感じで、自分が心底『好き』なことを、みんなにもそれぞれ挙げてもらいたいと思います。いくつ挙げてもいいですよ。これが最初のステップです」

 僕自身のことを例にしながら話を進めていくのですが、ただ僕の話をするのではなく、ワークショップとして一人ひとりに自分自身のことを考えてもらうのです。

© WITH ALS

 好きなことを深掘りしていく5ステップ

 このメソッドには、第1ステップから第5ステップまで、5つの段階があります。

(1)Feeling 自分が本当に好きなことは何かを見つめてみる。

(2)Finding (1)で挙げたものに、どんな共通点があるのか考える。「なぜ好きなのか?」「好きなポイントは何か?」という視点で、グループ分けする。すると、自分はどういうことを好きになる傾向があるのか、何に価値を感じる人間なのかに気づくことができる。

(3)Visioning その「好きなこと」をもっと楽しみ、深掘りしていくために、具体的な目標を立てる。たとえばバスケットボールが好きだったら、「チームのレギュラー選手になる」とか、「次の大会で地区優勝を目指そう」といった目標にチャレンジする。

(4)Researching 目標を達成するには、何をすればいいか。アンテナを張って、いろいろ情報を収集したり、視点を拡げて別の見方をしたり、どの選択肢がいいかを考えたりする必要がある。自分の知っていることはほんの一部なのだと気づき、目標に向かうために大事な要素は何かを考えたり、見極めたりする。

(5)Moving 目標は達成できたかな?たぶん、挑戦する前よりも、もっとそのことが好きになって、面白くなっているはず。そうすると、次にやってみたいこと、挑戦したいことが見えてくる。どうしたらもっと面白くできるかといったアイディアも湧く。つねに目標をもって、その実現を目指して動きながら、次に何をしたらいいかを考えていく。

 こうやって階段を一段ずつ上っていくと、好きなことの世界がどんどん拡がっていき、また力がついて上達していきます。
「このコツを覚えておくと、いろいろなことに役立ちます。僕は大人になった今でも、この5つのステップを何度も繰り返して、自分のやりたいことを進化させています。好きなことって夢中になってできるでしょう?努力することがイヤではないんですね。好きだから、頑張れちゃうんです。だから、自分が心の底から好きだと思えることを大事にしてください。好きなことで一歩一歩挑戦を続けていくことが、なりたい自分になっていく道、夢をかなえる方法です」

 この後、僕は自分がALSという病気になって考えたことを話しました。
 もう何もかもできなくなってしまうのかと絶望的な気持ちになったときに、自分の原点にある思いを振り返ったという話です。
 大学生のときに、「社会を明るくするアイディアを形にしよう」と考えて、学生団体を立ち上げ活動をしていたこと。
 それがとてもやりがいがあり、楽しかったので、「社会を明るくする」仕事がしたいと思って広告会社に入ったこと。
 自分がALSになってしまったからといって、僕という人間の心が失われてしまったわけではないこと。
 そういうことを振り返ってみたとき、「自分には、ALSと闘っている患者さんたちの未来を明るくすることができるんじゃないか」と思えたこと。
 今もそのために頑張っていること。
 自分がやりたいと強く思うことがあり、かなえたい夢やビジョンをもっていると、壁を乗り越える原動力になる、と僕は話したのです。

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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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