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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第17回

「声」というコミュニケーション手段を失わないために

2018.07.26更新

読了時間

【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
「目次」はこちら

「声」というコミュニケーション手段を失わないために

 ALSで言葉を発することが次第に困難になっていくのに、なぜラジオのナビゲーターをやろうと思ったのか。
 いずれしゃべれなくなってしまうこの病気に対する、僕の挑戦のひとつなのです。「NO LIMIT, YOUR LIFE.」ということを、僕自身が実証するためのチャレンジ。
 僕は「もう少し声が出しにくくなったら、そこでやめよう」なんて思っていません。もちろん局のほうから「もう降板してください」と言われたら仕方ありませんが、自分の意志としては、とことんやり続けたいと思っています。
 それにはどうしたらいいかを考え、1年以上前から準備を進めてきています。それは「音声合成」のテクノロジーを活用することです。
 僕たちの身の回りには音声認識、音声合成が活用されているものがどんどん増えてきています。従来、合成された音声というと機械的で無機質な印象が拭えませんでしたが、近年は人間の声をコンピューターに認識させ、それをもとに「再現」する技術が進化してきているのです。
 病気や手術で声が失われる患者さんのために、できるだけ本人の声に近いかたちで再現する音声合成ソフトウェアがあります。「ボイスター」(ヒューマンテクノシステム)といいます。
 あらかじめ自分の声を一定量、録音し、声を再利用するためのデータベースを作成します。これを用意しておけば、眼を使ってメッセージを入力すると、自分自身の声質や口調を活かした音声合成ができるのです。
 僕は、このデータベース用の声の収録をすでに済ませました。
 ボイスターで再現される音声は、自分の声や話し方の特徴がかなり反映されていて精度が高いです。ただ、録音のために読み上げる文章量がとても多く、録音には時間がかかります。そこからソフトの作成までの作業にも時間を要しますし、コストもかなり高い。そういう意味では、どんな人でも手軽に利用できる、というものではありません。

 僕は、例のごとく「障害者用」という発想ではないテクノロジーに目を向けました。そこで出合ったのが、東芝さんの技術です。
 東芝さんは、カーナビなどで、長年にわたって音声合成の研究が行われてきていたそうです。その蓄積を活かし、「自分の声を登録しておき、文字を打てば『コエ』がしゃべってくれる」というスマホアプリを開発されました。それが「コエステーション」(東芝デジタルソリューションズ)です。
 まずは自分の声をデータ化するというしくみは同じなのですが、こちらはとにかく簡単。10文程度の例文を読み上げるだけなので、それにかかる時間は5分程度。そこからクラウド上で声の特徴を分析し、声の分身「コエ」が生成されるまでが15~20分ほど。これだけで、「コエ」が出来上がり、文字を入力すればその「コエ」でコミュニケーションをとることができます。
「コエステーション」は、「コエ」を使って自由に遊ぼうという趣旨のものなので、とにかく手軽に使えるところがポイントです。
 僕もやってみました。たった10文ほどの例文で、僕の声によく似た音声が出てくることに驚かされました。しかも、例文を多く読めば読むほど、声の再現性をより高くすることもできるといいます。
「WITH ALS」として、共同研究プロジェクトを一緒に行わせていただいているので、僕自身は200文に挑戦して、妻や仲間が驚くほど、僕の声を再現することができました。
 パラメーターの調整によって「コエ」のトーンをいろいろ変えることもでき、より自分が理想とする「コエ」を表現することもできます。ちょっとコエを高くしたり、喜びや怒りを表現したり。楽しいものが出てきたな、とワクワクしました。
 このテクノロジーは、 障害の有無にかかわらず、誰もが自分の「コエ」を簡単に残すことができるのです。誰にとっても自分らしさを表現する声は、とても大切なものだと思います。どうか、あなたの「コエ」も残してみてください。きっと、自分にとっても、あなたのまわりの大切な誰かにとっても、喜びにつながると思うのです。

 僕は今、声を発するための筋肉や呼吸筋の動きが、少しずつ衰えてきています。
 呼吸を維持するために気管切開の手術を受けるかどうかというのは、ALS患者にとっては大きな決断となります。僕はこの手術をすることをすでに決心しています。そうすると、声を出すことは徐々に難しくなっていくでしょう。
 僕にとって、話すこと、声でコミュニケーションをとることは非常に重要なことなので、声を失ってしまうことに対しては大きな不安がありました。
 しかし、音声合成のテクノロジーが不安を解消してくれました。
 そのうち、僕が眼などでメッセージを入力し、それを僕の声で再生してラジオ番組をお届けすることができるのではないかと考えています。

© 阪本勇

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一般社団法人WITH ALS
ホームページ http://withals.com/
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Instagram https://www.instagram.com/withals_masa/

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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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