第20回
何のためにやるのか、目的が明確なら勉強は面白い
2018.08.07更新
【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
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何のためにやるのか、目的が明確なら勉強は面白い
僕は、第一志望ではなかった國學院大學に進学しました。そのときには、「仕方なく」という気持ちはすっかり消えていて、心機一転、「ここで最高の学生生活を送ってやる!」という気持ちでした。
アルティメットのチーム「TRIUMPH」に所属し、すぐに仲のいい仲間もできました。
僕は経済学部でしたが、「好きな洋服関係の仕事をするには何が必要なのか?」という意識をもつようになったら、経営理論とかマーケティングとかの授業が、すごく面白く感じられたんです。
「勉強ってこんなに面白いものだったのか」ということを、僕は大学生になって初めて知りました。
そのときに、自分がなぜ受験に失敗したのか、敗因がわかったんです。
僕は、受験勉強を自分のためにやるもの、「自分事」にできていなかったのです。
何のために大学に行きたいのか、何のために勉強するのか、自分自身が「こうなりたい」というビジョン、目指していることがはっきりしていれば、そのために全力で頑張ることができます。でも僕は、そういうビジョンを自分の中で見出せていなかった。だから本気で集中できなかったんです。
「自分は何のためにこれをやっているのか」
このことがクリアになっていれば、「自分事」として熱くなれます。
同じ勉強でも、やらなきゃいけないものとして、仕方なくやっているとつまらないですが、「この目的を達成するために必要な勉強だ」と思えたら、めちゃくちゃ真剣になります。
逆に言えば、「こうなりたい」という人生のビジョンがあれば、逆算して「そのためには、こういう勉強が必要だな」とか「こういう資格もあったほうがよさそうだ」と考えられます。
ビジョンをもつというのは、先のことが見えやすくなることにつながるんです。
こういう考え方をするようになったら、急に人生がうまく回転しはじめました。
僕は、自分の将来に対してまだ具体的なイメージが描けていないであろう中学生のみなさんに、このことを伝えたかったのです。
好きなことで目標を掲げて、打ち込む
大学時代、僕はじつに濃密な毎日を過ごしました。
最初は、卒業後はファッション関係の仕事をしようと思っていたので、販売のアルバイトをすることにしました。前述したように、商品を売る面白さを味わいました。
ネットショッピングの勉強をしようとITベンチャーのインターンを経験したことで、IT業界や広告業界に興味を惹かれるようになり、「社会を変えていくようなクレイジーな人間になりたい」と思うようになります。
そして大学を変えようと、学生団体を立ち上げました。
当時の僕はやりたいことがどんどん増え、その力をつけたくて、フル回転で動いていました。
大学で授業に出て、インターンの会社に行って仕事をして、会社が終わったら資格取得のための学校に通っていました。簿記の資格、システム・アドミニストレータというITの資格を取りたかったからです。
その合間に学生団体の活動をしていました。イベントの企画を立てたり、フリーペーパーを出したり、仲間たちとCM映像を制作していろいろなコンペに出したり……。
何もかも面白かったですね。自分の好きなこと、夢中になれることが起点になっていて、それぞれに達成したい目標があったから、必死にやれたのです。
ひとつ達成できると、次の目標が見えてくるものなんだなとわかったのもその頃です。
目の前の目標突破、次の目標、その次の目標……その延長線上に、かなえたい夢があるんだと考えられると、一歩一歩進んでいけば、いつかは手が届くわけです。
結果を出すということは、「次のチャンスを得やすくする」ことだということも学びました。
武器は「好き」を推進力として邁進すること、味方は自分が出してきた結果、今につながる僕のポリシーは、ほとんど大学時代に培われたものだといえます。
© WITH ALS
「自分の勝ち方」を見つける
大学3年のときには、広告業界を目指したいという気持ちになっていました。OB訪問をしたりして、僕は博報堂を狙うことにしました。
ものすごい競争率です。超一流といわれる大学出身の人たちが受けに来ます。僕は國學院という学校がすごく好きで誇りももっていますが、ハイスペックな一流大の人たちが鎬を削るなか、明らかに不利な状況であることは、よくわかっていました。
正直な話、同じようなタイプの東大生と國學院生がいたら、僕が人事担当者だったとしても、東大生を採ると思います。そのほうがリスクが少ないですし、上にも説明しやすいでしょう。
では、そういう人たちの中で、僕はどうすれば自分の存在証明をして、結果を出すことができるのか。
僕は、大学時代に自分が何をやってきたか、その実績で勝負するしかないんです。
学生団体にせよ、映像制作にせよ、僕がやってきたのは「とにかくゼロから何かを生み出す」ことでした。
たとえば、ミス・ミスターコンテストの開催ひとつとっても、先輩がやっていたことを引き継いだのと違い、それまで学内でやったことがないことを初めて実現させたわけです。
そういう、「本学で初めて」といわれることをいろいろやってきたことは、自分が自信をもってアピールできるポイントだと思っていました。
難関突破して、内定をもらうことができたとき、この大学に進んだことを、自分の力で挽回し、失敗ではなくすることができた、という気持ちになりました。
気の合う会社の同期ふたりとルームシェアをしていたことがあります。ふたりとも東大卒で、ものすごく優秀で、さまざまな刺激を僕に与えてくれました。その仲間が、
「熱量、人間力、クリエイティブな発想、この3つではおまえには勝てないなあ」
とよく言ってくれました。
僕という人間の最強の持ち味はそこなんだな、と自信をもてたことをよく覚えています。
だから、病気になったからといって、僕が僕であるために、その3つを失うわけにはいかないのです。
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