第8回
易性第八
2018.12.13更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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易性第八
8 上善は水のごとし
【現代語訳】
最上の善は、水のようなものである。水は万物の生長をうながし、しかも争うことがない。そして誰もが嫌がる低い場所に落ち着く。だから道のはたらきに近いといえる。
住むところは自分の住んでいる所がよく、心のはたらきは奥深いのがよく、人との交わりでは思いやり(仁)があるのがよく、言葉はまこと(信)であるのがよく、政治としてはよく治まるのがよく、仕事では有能なのがよく、行動は時宜(じぎ)を得ているのがよい。
そもそも、争わないから、間違いもないのだ。
【読み下し文】
上善(じょうぜん)は水(みず)の若(ごと)し(※)。水(みず)は善(よ)く万物(ばんぶつ)を利(り)して而(しか)も争(あらそ)わず。衆人(しゅうじん)の悪(にく)む所(ところ)に処(お)る。故(ゆえ)に道(みち)に幾(ちか)し。
居(きょ)には地(ち)を善(よ)しとし(※)、心(しん)には淵(えん)なるを善(よ)しとし、与(まじわり)には仁(じん)を善(よ)しとし、言(げん)には信(しん)を善(よ)しとし、正(せい)には治(ち)を善(よし)とし、事(こと)には能(のう)を善(よし)とし、動(どう)には時(じ)を善(よし)とす。
夫(そ)れ唯(た)だ争(あらそ)わず、故(ゆえ)に尤(とが)め無(な)し。
- (※)上善は水の若し……水を模範としている言葉を使う例は多い。老子も他の章で使用し(任信第七十八など)、他にも孫子、荘子(そうし)、荀子(じゅんし)などが水を使っている。なお、黒田如水(官兵衛)の「如水」は老子からの説が有力。一橋大学の学友組織「如水会」は、礼記(らいき)の「君子の交わりは淡きこと水のごとし」からとされる(渋沢栄一命名)。
- (※)居には地を善しとし……ここの句の意味については多く論争がある(この句を削るべしとまでする説もある)。ある説は「住居としては土地の上がよく」とし、別の説では「低いところに置くのがよい」とする。本書では、詩人、英文学者の加島祥造氏の説に近いものを採用した(『タオ 老子』ちくま文庫)。なお、東洋学者、中国哲学研究者の武内義雄氏は「居善地以下七句二十一字は、古注のまぎれ込んだもの」とされている(『老子』岩波文庫)。
【原文】
易性第八
上善若水。水善利萬物而不爭、處衆人之所惡、故幾於道。
居善地、心善淵、與善仁、言善信、正善治、事善能、動善時。
夫唯不爭、故無尤。
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