第12回
檢欲第十二
2018.12.19更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
「もくじ」はこちら
檢欲第十二
12 ぜいたく、刺激的なものを追うとおかしくなる
【現代語訳】
五つの色を使ったきらびやかな色彩が人の目をくらます。五つの音を使ったいろいろな音楽が人の耳をおかしくさせる。五つの味を交えたおいしい料理が人の味覚を損なわせる。馬を走らせ狩猟するという趣味は人の心を狂気にさせる。手に入れにくい財貨は人の行いをおかしくさせる。
だから「道」と一体になっている聖人は、人々の腹をいっぱいにすることに努めて、目を楽しませるようなことはしない(生活を重んじ、ぜいたく、刺激的なことでごまかさない)。したがって、あちらの目を捨てて、こちらの腹を取るのだ(華美なこと派手なことを捨て、基本の生活を重視するのだ)。
【読み下し文】
五色(ごしき)(※)は人(ひと)の目(め)をして盲(もう)ならしむ。五音(ごいん)(※)は人(ひと)の耳(みみ)をして聾(ろう)ならしむ。五味(ごみ)(※)は人(ひと)の口(くち)をして爽(たが)わしむ。馳騁田猟(ちていでんりょう)(※)は、人(ひと)の心(こころ)をして狂(きょう)を発(はっ)せしむ。得(え)難(がた)きの貨(か)は、人(ひと)の行(おこな)いをして妨(さまた)げしむ。
是(ここ)を以(もっ)て聖人(せいじん)は、腹(はら)を為(な)して目(め)を為(な)さず(※)。故(ゆえ)に彼(かれ)を去(す)てて此(こ)れを取(と)る。
- (※)「五色」、「五音」、「五味」……「五色」は、青、黄、赤、黒、白、「五音」は、五声と同じで、宮(きゅう)、商(しょう)、角(かく)、徴(ち)、羽(う)、「五味」は、甘(かん)、酸(さん)、苦(く)、辛(しん)、鹹(かん)をいう(拙著『全文完全対照版 孫子コンプリート』勢篇参照)。
- (※)馳騁田猟……「馳騁」は馬を走らせること。「田猟」は狩猟のこと。狩猟はいつの世も世界的に上流階級の楽しみであった。日本でも徳川家康などの武将は趣味と実益(軍事的、体力的な)を兼ねて、好んでいた。
- (※)腹を為して目を為さず……同様の記述は安民第三にも「其の心を虚しくして其の腹を実たし」とあった。ここでは、(道と一体となった)聖人は人々の生活を守ることを重んじ、他の欲望を満たして刺激を喜ばすようなことはないという意味で、老子は古代ローマ皇帝が行ったコロッセオでの格闘ショーのようなものに関しては否定的だったのがわかる。
【原文】
檢欲第十二
五色令人目盲、五音令人耳聾、五味令人口爽。馳騁田獵、令人心發狂。難得之貨、令人行妨。
是以聖人爲腹、不爲目。故去彼取此。
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く