Facebook
Twitter
RSS
全文完全対照版 老子コンプリート 野中根太郎 訳

第27回

巧用第二十七

2019.01.11更新

読了時間

日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
「もくじ」はこちら

巧用第二十七

27 すべての者に存在意義がある

【現代語訳】

よい行き方をする者は、その跡を残さない。よい言葉を使う者は、言葉にきずがなく、過失がない。よく計算できる者は、計算棒(計算する道具)を用いない。よき戸締まりをする者は、鍵やかんぬきを使わなくても、開けることをできなくする。よい結び方をする者は、ひもやなわを使わないでも、解くことをできなくする。
このように「道」と一体となっている聖人は、いつも人々を救い(それぞれ役立たせる)、人々を見放すことがない。いつもものを救う(それぞれ役立たせる)から、どんなものも捨てることはない。このことを明知に従うという。
したがって善人は不善人の師であり、不善人は善人の反省の助けとなる。それなのに師(善人)を尊ばず、資(反省の助けとなる不善人)を愛さなければ、どんなに智者であっても、大いに迷うことになってしまう。これを要妙(奥深い真理)という。

【読み下し文】

善(よ)く行(ゆ)く者(もの)は轍迹(てっせき)無(な)し。善(よ)く言(い)う者(もの)は瑕讁(かたく)(※) 無(な)し。善(よ)く数(かぞ)うる者(もの)は籌策(ちゅうさく)(※)を用(もち)いず。善(よ)く閉(と)ざす者(もの)は関楗(かんけん)(※) 無(な)くして而(しか)も開(ひら)くべからず。善(よ)く結(むす)ぶ者(もの)は縄約(じょうやく)無(な)くして而(しか)も解(と)くべからず。
是(ここ)を以(もっ)て聖人(せいじん)は常(つね)に善(よ)く人(ひと)を救(すく)う、故(ゆえ)に人(ひと)を棄(す)つること無(な)し。常(つね)に善(よ)く物(もの)を救(すく)う、故(ゆえ)に物(もの)を棄(す)つること無(な)し。是(これ)を明(めい)に襲(よ)る(※)と謂(い)う。
故(ゆえ)に善人(ぜんにん)は不善人(ふぜんにん)の師(し)、不善人(ふぜんにん)は善人(ぜんにん)の資(し)なり。其(そ)の師(し)を尊(たっと)ばず、其(そ(の資(し)を愛(あい)せざれば(※)、智(ち)ありと雖(いえど)も大(おお)いに迷(まよ)う。是(こ)れを要妙(ようみょう)と謂(い)う。

  • (※)瑕謫……言葉にきずがない。言葉に過失がない。
  • (※)籌策……古代の計算する道具。なお、原文の「籌策」の上に「用」の字を加えて解釈した。「用」がないとする説もあるが、『帛書』にも「用」の字がある。
  • (※)関楗……門を閉じる道具。「関」は横に使うかんぬき、「楗」は縦に使うつっかい。
  • (※)明に襲る(襲明)……明知に従う。「襲」は因の意味。
  • (※)資を愛せざれば……「資」は元手、助け、手本などの意味。不善人を見て、反省の材料にしたり、学びの元とすることで、不善人も愛さなければならないということ。

【原文】

巧用第二十七

善行無轍迹、善言無瑕讁、善數不用籌策。善閉無關楗而不可開、善結無繩約而不可解。
是以聖人常善救人、故無棄人。常善救物、故無棄物。是謂襲明。
故善人者、不善人之師。不善人者、善人之資。不貴其師、不愛其資、雖智大迷。是謂要妙。

「目次」はこちら


【単行本好評発売中!】

この本を購入する
シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印