第32回
聖德第三十二
2019.01.21更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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聖德第三十二
32 止まることを知っている者は、危険な目に遭うことはない
【現代語訳】
「道」はいつも名がない。まだ手を加えていないあら木は、小さくても世の中でこれを支配できるものはいない。
諸侯や王たちが、これをわかって守れるならば、万物は自ずから従うようになるだろう。天と地は相い合して瑞祥(ずいしょう)の甘露(かんろ)を降らせ、人々は命令されなくても自然にまとまるであろう。
手を加えていないあら木が切られ、器がつくられ始めると名がつけられる。名ができたならば、そこから差別が出てくるので、それを思いとどまることが求められる。とどまることを知っていると、危険に遭うことはなくなる。「道」がこの世にあるさまをたとえてみると、いわば川や谷の水が大河や海に流れていくようなものである。
【読み下し文】
道(みち)は常(つね)に名(な)無(な)し。樸(ぼく)は小(しょう)なりと雖(いえど)も、天下(てんか)に能(よ)く臣(しん)とする莫(な)し。
侯王(こうおう)若(も)し能(よ)くこれを守(まも)らば、万物(ばんぶつ)は将(まさ)に自(おの)ずから賓(ひん)(※)せんとす。天地(てんち)相(あい)い合(がっ)して以(もっ)て甘露(かんろ)(※)を降(くだ)し、民(たみ)はこれに令(れい)する莫(な)くして而(しか)も自(おの)ずから均(ひと)し。
始(はじ)めて制(せい)(※)して名(な)有(あ)り。名(な)亦(ま)た既(すで)に有(あ)り、夫(そ)れ亦(ま)た将(まさ)に止(とど)まることを知(し)らんとす。止(とど)まることを知(し)らば、殆(あや)うからざる所以(ゆえん)なり。
道(みち)の天下(てんか)に在(あ)るを譬(たと)うれば、猶(な)お川谷(せんこく)の江海(こうかい)(※)に於(お)けるがごとし。
- (※)賓……従うようになること。帰すること。
- (※)甘露……天から与えられる甘い不老不死の霊薬。中国古来の伝説では、天子が仁政を行うめでたい前兆として天から降るという(『国語大辞典』小学館)。
- (※)制……樸(あら木)を裁断して器物をつくる。
- (※)江海……大河と海。ここでは「道」を江海にたとえている。「道」と天下の関係は、あたかも江海と川谷との関係のようなものであるとする。
【原文】
聖德第三十二
道常無名。樸雖小、天下莫能臣。
侯王若能守之、萬物將自賓。天地相合以降甘露。民莫之令而自均。
始制有名。名亦既有、夫亦將知止。知止、所以不殆。
譬道之在天下、猶川谷之於江海
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