第74回
制惑第七十四
2019.03.22更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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制惑第七十四
74 圧政を行えば悪い結果ばかり起きてしまう
【現代語訳】
人々が圧政で死をも恐れなくなったとしたら、死刑でもって人々をおどすことができるだろうか。もし人々が常に死を恐れているなら、秩序を乱す者が出たら、私はそれを捕らえて殺すことができるが、どうしてあえて殺す必要があろうか。
この世には常に、人を殺すことをつかさどるものに天道があるのである。それに代わって殺すことを、大工の名人に代わって木を切るという。そのように大工の名人に代わって木を切れば、自分の手を傷つけないで済むことはまれなことである(自分自身も損なうことになるだろう)。
【読み下し文】
民死(たみし)を畏(おそ)れざれば、奈何(いかん)ぞ死(し)を以(もっ)てこれを懼(おそ)れしめん。若(も)し民(たみ)をして常(つね)に死(し)を畏(おそ)れしめば、而(すなわ)ち奇(き)を為(な)す者(もの)(※)は、吾(わ)れ執(とら)えてこれを殺(ころ)すを得(え)んも、孰(たれ)か敢(あ)えてせん。
常(つね)に殺(さつ)を司(つかさど)る者(もの)(※) 有(あ)りて殺(ころ)す。夫(そ)れ殺(さつ)を司(つかさど)る者(もの)に代(か)わりて殺(ころ)す、是(こ)れを大匠(たいしょう)(※)に代(か)わりて斵(き)る(※)と謂(い)う。夫(そ)れ大匠(たいしょう)に代(か)わりて斵(き)る者(もの)は、其(そ)の手(て)を傷(きず)つけざる有(あ)ること希(まれ)なり。
- (※)奇を為す者……秩序を乱す者、邪悪な行動をする者。
- (※)殺を司る者……天道、自然の摂理を意味している。なお、この句の前に「若民恒且必畏死」という句が入るとする説もある(『帛書』乙本)。「若も(し)、民(たみ)、恒(つね)に且(まさ)に必(かなら)ず死(し)を畏(おそ)れば」などと読む。
- (※)大匠……大工の名人、棟梁。
- (※)斵る……木を切る。
【原文】
制惑第七十四
民不畏死、奈何以死懼之。若使民常畏死、而爲奇者、吾得執而殺之、孰敢。
常有司殺者殺。夫代司殺者殺、是謂代大匠斵、夫代大匠斵者、希有不傷其手矣。
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