第80回
獨立第八十
2019.04.01更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
「もくじ」はこちら
獨立第八十
80 自分たちの衣食住と暮らしを最高に思う
【現代語訳】
小さな国で少ない国民がいい。たとえ十倍、百倍の便利な道具があっても、それを用いないようにさせ、人々には自分の生命(いのち)を大事にさせ、遠方の土地に移住しないようにさせる。舟や車があってもそれに乗ることはなく、甲(よろい)や武器があってもそれを使うことはない。人々には、昔のように縄を結んで記号として用いさせる。
自分たちの食べものをうまいとし、自分たちの衣服をよいものだとし、自分たちの住居に安んじ、自分たちの習俗を楽しいとする。隣の国が向こうに見えていて、その鶏(にわとり)や犬の鳴き声が聞こえてきても、人々は老いて死ぬまで互いに行き来することもないだろう。
【読み下し文】
小国寡民(しょうこくかみん)(※)。什伯(じゅうはく)の器(き)(※) 有(あ)るも而(しか)も用(もち)いざらしめ、民(たみ)をして死(し)を重(かた)んじて而(しか)して遠(とお)く徙(うつ)らざらしむ。舟輿(しゅうよ)有(あ)り(※)と雖(いえど)も、これに乗(の)る所(ところ)無(な)く、甲兵(こうへい)(※) 有(あ)りと雖(いえど)も、これを陳(つら)ぬる所(ところ)無(な)し(※)。人(ひと)をして復(ま)た縄(なわ)を結(むす)びて(※)而(しか)してこれを用(もち)いしむ。
其(そ)の食(しょく)を甘(うま)しとし、其(そ)の服(ふく)を美(び)とし、其(そ)の居(きょ)に安(やす)んじ、其(そ)の俗(ぞく)を楽(たの)しとす。隣国(りんごく)相(あ)い望(のぞ)み、鶏(けい)犬(けん)の声(こえ)相(あ)い聞(き)こゆるも、民(たみ)は老死(ろうし)に至(いた)るまで、相(あ)い往来(おうらい)せず。
- (※)小国寡民……古代中国は都市国家であり、国は城壁で囲まれていた。老子は本章で一つの理想郷(ユートピア)を考え、提案している。また、老子のいう天下や大国というのは、そうした小国の集合体であった。そして「道」に合った「無為」の政治を求めたのである。
- (※)什伯の器……十、百の器。器については本書では道具と解したが、能力や人力と解する説もある。
- (※)舟輿有り……「輿」とは車のこと。舟や車があること。
- (※)甲兵……鎧と武器。
- (※)陳ぬる所無し……「陳ぬる」とは並べること。つまり、武器を使うこと。
- (※)縄を結びて……文字のない時代、縄を結んで文字の代わりとしたとされる。
【原文】
獨立第八十
小國寡民、使有什佰之器而不用、使民重死而不遠徙。雖有舟輿、無所乘之、雖有甲兵、無所陳之。使人復結繩而用之。
甘其食、美其服、安其居、樂其俗。隣國相望、鷄犬之聲相聞、民至老死、不相往來。
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く