第83回
解説(2)
2019.04.04更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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一 老子の成り立ち
1 謎に包まれた老子の成立
「老子」とは、老子という人物が著したとされる書物で約五千字と短いものである。これまで通常には上篇の道経三十七章と下篇の徳経四十四章から成り、そこから、「老子道徳経」ともいわれてきた。
ただし、一九七三年に中国湖南省長沙(ちょうさ)市馬王堆(まおうたい)で、前漢時代の二種類の絹に書かれた「老子」が発見された。これが『帛書』と呼ばれ、二つはそれぞれ甲本、乙本といわれているが、そこでは上篇と下篇の順序が逆になっている。しかも、甲本、乙本とも分章もされていない。
なぜ、これまでのように上編を道経とし、下篇を徳経とされてきたかは、正確にはわかっていない。老子の思想は、「道」(英語では「タオ」と呼ばれている)を根底にして、私たちもそれと一体化することを理想としているため、この順序となってきたのではないかと考える(これはあくまでも私の推量であるが)。
本書では、これまでの通説の順序と章立てにしたが、特に上篇道経と下篇徳経には分けていない。
各章本文の解釈でもそうだが、基本としてこれまでの一般といわれてきた説(いわゆる通説)を採り、どうしても自分の見方によりたいもののみを一部だけ入れさせてもらった。
というのも、本書は学術論文ではなく、「老子」という書物の入門書、基本書であり、読者それぞれに自分の解釈をしてもらうための叩き台としての役割を考えてのことであるからだ。
それにしても「老子」については、論争が多く、不明確な点がたくさんある。
中国発祥のもう一つの古典の雄「論語」が孔子の言行録を中心としたものとされているのに対し、「老子」はあまりにも明確でないところがある。
成立までの過程がわりとはっきりしている「論語」でも、孔子の後の世代の人が書き加えているとされているが、「老子」では一層そう見られている。
さて、本文にも紹介したが、「老子」は、紀元前三〇〇年以降に原本がつくられ、現行本としての最終成立は紀元前一〇〇年ごろとするのが通説である。
とすると、老子は孔子より一〇〇年から二〇〇年ぐらい後の人である。孟子と同じくらいの時代を生きた人かもしれない。そう見ると、「老子」の本文に見られる孔子に始まる儒教への批判もよくわかるような気がする。
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