第7回
16〜18話
2019.12.31更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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16 自分に厳しくあれ
【現代語訳】
人から恩恵や利を受けるときは控え目にして、他人より先に取ろうとしてはならない。しかし、世のため人のためになることをするときには、他人に遅れをとってはいけない。人から物を受け取るときは、分相応を超えないように気をつけるべきである。しかし、自分を鍛え向上させることについては、自分の分を減らそうなどと考えてはいけない(できる限り上を目指して努力すべきである)。
【読み下し文】
寵利(ちょうり)は人前(じんぜん)に居(お)る(※)こと毋(な)かれ。徳業(とくぎょう)は人後(じんご)に落(お)つる(※)こと毋(な)かれ。受享(じゅきょう)は分外(ぶんがい)に踰(こ)ゆること毋(な)かれ。修為(しゅうい)(※)は分中(ぶんちゅう)に減(げん)ずること毋(な)かれ。
(※)人前に居る……自分を他人より優先させること。
(※)人後に落つる……他の人に遅れをとること。
(※)修為……自分の修業についての行為。『論語』も「仁(じん)に当(あ)たりては師(し)に譲(ゆず)らず」(衛霊公第十五)と述べている。
【原文】
寵利毋居人歬。德業毋落人後。受享毋踰分外。修爲毋減分中。
17 情けは人のためならず
【現代語訳】
この世を生きていくにおいては、人に一歩譲る心がけを持つと良い。一歩を譲ることが、実は自分が一歩先に行く根本となるのである。また、人に完全を求めてはいけない。一分は寛大な心がけがあると良い。この人のために利する行為が、将来の自分のための土台をつくってくれるのだ。
【読み下し文】
世(よ)に処しょする(※)に一歩(いっぽ)を譲(ゆず)るを高(たか)しと爲(な)す。歩(ほ)を退(しりぞ)くは即(すなわ)ち歩(ほ)を進(すす)むるの張本(ちょうほん)(※)なり。人(ひと)を待(ま)つ(※)に一分(いちぶ)を寛(ひろ)くするは是(こ)れ福(さいわい)なり。人(ひと)を利(り)するは実(じつ)に己(おのれ)を利(り)するの根基(こんき)(※)なり。
(※)世に処する……この世を生きていくこと。なお、『老子』は、「其(そ)の身(み)を後(あと)にして而(しか)も身(み)は先(さき)んじ、其(そ)の身(み)を外(そと)にして而(しか)も身(み)は存(そん)す」(韜光第七)とする。
(※)張本……物事の原因となるもの。
(※)人を待つ……人と対応する。なお、人に完全を求めてはならないことについては『論語』に「備(そな)わるを一人(ひとり)に求(もと)むること無(な)かれ」(微子第十八)とある。
(※)根基……根本の基礎。土台。
【原文】
處世讓一步爲高。退步卽進步的張本。待人寛一分是福。利人實利己的根基。
18 どんな功績も自慢すると台なしとなる
【現代語訳】
世に知れ渡る大きな功績も、少しでもそれを誇る気持ちが外に出たら、台なしとなる(大きな功績も「矜」の字には耐えられない)。天をおおうかのような大罪も、それを心から悔い改めるなら、救われる(大罪も「悔」の字には耐えられない)
【読み下し文】
世(よ)を蓋(おお)う(※)の功労(こうろう)も、一個(いっこ)の矜(きょう)(※)の字(じ)に当(あ)たり得(え)ず(※)。天(てん)に弥(わた)るの罪過(ざいか)も、一個(いっこ)の悔(かい)の字(じ)に当(あ)たり得(え)ず。
(※)世を蓋う……この世に知れ渡る。世になり響く。
(※)矜……自慢すること。誇ること。なお、『老子』も「自(みずか)ら伐(ほこ)る者(もの)は功(こう)無(な)く、自(みずか)ら矜(ほこ)る者(もの)は長(ひさ)しからず」(苦恩第二十四)と述べている。また、『論語』でも孔子は、「其(そ)れ之(これ)を言(い)いて怍(は)じざれば、則(すなわ)ち之(これ)を為(な)すや難(かた)し」(憲問第十四)と言っているし、日本の貝原益軒も『和俗童子訓』のなかで次のように述べている。「およそ人(ひと)の悪徳(あくとく)は矜(きょう)なり。矜(きょう)とは、ほこると読む。高満(こうまん)(慢)の事(こと)也(なり)。自(みずから)是(ぜ)として其(その)悪(あく)をしらず。過(あやまち)を聞(き)きても改(あらた)めず。故(ゆえ)に悪(あく)を改(あらた)めて、善(ぜん)に進(すす)む事(こと)、かたし」。
(※)当たり得ず……台なしとなる。対抗できない。
【原文】
蓋世功勞、當不得一個矜字。彌天罪過、當不得一個悔字。
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