第17回
46〜48話
2020.01.20更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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46 地位、権力、お金などの誘惑に負けてはならない
【現代語訳】
徳を磨いて道を修め人格の向上を図っていくには、何ものにも動じない木石(ぼくせき)のような固い心がけが必要である。そうでないと、ひとたび地位、権力、お金、色などの誘惑に負けてしまうと、その欲望のとりこになってしまう。また、世を救い国のために仕事をしていこうという者は、行く雲、流れる水のようになにものにもとらわれない無心の境地でいるべきだ。そうでないと、ひとたび地位、権力、お金、色などに執着してしまうと、志を失うとともに、自身の危機を招くことになる。
【読み下し文】
徳(とく)に進(すす)み道(みち)を修(おさ)むるには、個(こ)の木石(ぼくせき)の念頭(ねんとう)(※)を要(よう)す。若(も)し一(ひと)たび欣羨(きんせん)(※) 有(あ)れば、便(すなわ)ち欲境(よくきょう)に趨(おもむ)かん。世(よ)を済(すく)い邦(くに)を経(けい)するには、段(だん)(※)の雲水(うんすい)(※)の趣味(しゅみ)を要(よう)す。若(も)し一(ひと)たび貪着(とんじゃく)有(あ)れば、便(すなわ)ち危機(きき)に堕(お)ちん。
(※)木石の念頭……木石のような固い心。物に動じない心。
(※)欣羨……慕いうらやむ。
(※)段……一段。一層。一際。意味はない冠詞的用法の語。
(※)雲水……「行雲流水」の略で、止宿することなく行脚する修行僧のこと。ここでは、何ものにもとらわれない無心の境地を指している。
【原文】
進德修衜、要個木石的念頭。若一有欣羨、便趨欲境。濟世經邦、要段雲水的趣味。若一有貪着、便墮危機。
47 人の良さと悪さは隠しようがない
【現代語訳】
善人は、何事につけて穏やかであることはいうまでもない。それは寝ていても、その魂までもがやすらかで親しみやすい。一方、悪人は、何事も悪虐非道であることはいうまでもない。それは言葉つきや笑い声でさえ、すごみをきかせていてとげとげしい。
【読み下し文】
吉人(きつじん)(※)は作用(さよう)の安祥(あんしょう)(※)なるを論(ろん)ずる無(な)く、即(すなわ)ち夢寐(むび)(※)神魂(しんこん)も、和気(わき)に非(あら)ざるは無(な)し。凶人(きょうじん)は行事(こうじ)の狼戻(ろうれい)(※)なるを論(ろん)ずる無(な)く、即(すなわ)ち声音咲語(せいおんしょうご)(※)も、渾(すべ)て是(こ)れ殺機(さつき)(※)なり。
(※)吉人……善人。立派な人。
(※)安祥……穏やか。安らか。
(※)夢寐……眠る。寝る。
(※)狼戻……狼のように狂暴、悪虐非道。
(※)咲語……笑い声。
(※)殺機……とげとげしい。殺伐な気配。なお、本項で示す「悪人」は、やっかいな面倒くさい小物の悪人であり、見た目でわかるから決して近づいてはいけない。これに対して表面ではわからない悪人は、大悪人であることが多く、慎重に見極めていかねばならない。本項の解釈については、本書の前集138条も参照。
【原文】
吉人無論作用安祥、卽夢寐神魂、無非和氣。凶人無論行事狼戾、卽聲音咲語、渾是殺機。
48 人の見ていないところでも正しい生き方を守る
【現代語訳】
肝臓が病気になると目が見えなくなり、腎臓が病気になると耳が聞こえなくなるといわれている。このように、病気というものは人の見えないところに起きても、やがて必ず見えるところにも出てくるものだ。だから、君子たる者は、人の目につくところで罪を得ないようにしたいのなら、まず人の目がないところでも、罪を犯さないように心がけるべきである。
【読み下し文】
肝(かん)、病(やまい)を受(う)くれば(※)則(すなわ)ち目(め)視(み)ること能(あた)わず、腎(じん)、病(やまい)を受(う)くれば則(すなわ)ち耳(みみ)聴(き)くこと能(あた)わず。病(やまい)は人(ひと)の見(み)ざる所(ところ)に受(う)けて、必(かなら)ず人(ひと)の共(とも)に見(み)る所(ところ)に発(はっ)す。故(ゆえ)に君子(くんし)は罪(つみ)を昭昭(しょうしょう)(※)に得(う)ること無(な)きを欲(ほっ)せば、先(ま)ず罪(つみ)を冥冥(めいめい)(※)に得(う)ること無(な)かれ。
(※)肝、病を受くれば……古代中国では、肝臓と目、腎臓と耳は関係があり、さらに肺臓と鼻、脾臓と口、心臓と舌とも関係があるとされた。すなわち五行説に基づいて五感(視、聴、嗅、味、触)に応ずるとされた。
(※)昭昭……明るいところ。人の目に見えるところ。
(※)冥冥……暗いところ。人の目がないところ。なお、『大学』では「君子(くんし)は必(かなら)ずその独(どく)を慎(つつし)む」とある。『中庸』にも同じような表現がある。人の見ていないところでも身を慎めというのである。本項と同趣旨のことを述べている。
【原文】
肝受病則目不能視、腎受病則耳不能聽。病受於人所不見、必發於人所共見。故君子欲無得罪於昭昭、先無得罪於冥冥。
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