第24回
67〜69話
2020.01.29更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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67 善行を人に知られたいと思うのは良くない
【現代語訳】
悪事をなしても、それを人に知られることを恐れるならまだ救いがあり、そこに善に向かう心がある。善行をなしても、それを早く人に知られたく思うのは、それはすでに偽善というものであり、そこに悪に向かう芽が宿っている。
【読み下し文】
悪(あく)を為(な)して人(ひと)の知(し)らんことを畏(おそ)るるは、悪中(あくちゅう)にも猶(な)お善路(ぜんろ)(※) 有(あ)り。善(ぜん)を為(な)して人(ひと)の知(し)らんことを急(きゅう)にするは、善処(ぜんしょ)も即(すなわ)ち是(こ)れ悪根(あくこん)(※)なり。
(※)善路……善に向かう心。善に向かう路。
(※)悪根……悪に向かう芽。悪の根。
【原文】
爲惡而畏人知、惡中猶有善路。爲善而急人知、善處卽是惡根。
68 逆境は試練と、前向きにとらえる
【現代語訳】
天が人に与え、操る運命を知ることはできない。抑える(苦しませる)かと思えば、これを伸ばし(喜ばせる)、かと思うと、またこれを抑えてくる。こうして英雄まで翻弄(ほんろう)し、豪傑でさえ打ち倒してしまう。しかし、君子は天が逆境を与えれば、これを試練と前向きにとらえ、平穏なときにもいざというときの心構えをしておくと良い。天も、このような君子に対しては手の下しようがなくなる。
【読み下し文】
天(てん)の機緘(きかん)(※)は測(はか)られず。抑(おさ)えて伸(の)べ、伸(の)べて抑(おさ)う。皆(みな)是(こ)れ英雄(えいゆう)を播弄(はろう)し、豪傑(ごうけつ)を顚倒(てんとう)するの処(ところ)なり。君子(くんし)は只(た)だ是(こ)れ逆(ぎゃく)に来(き)たらば順(じゅん)に受(う)け(※)、安(やす)きに居(お)りて危(あや)うきを思(おも)う。天(てん)も亦(また)其(そ)の伎倆(ぎりょう)を用(もち)うる所(ところ)無(な)し。
(※)機緘……しかけ。からくり。変化。「天の機緘」は、「天が人に与えて操る運命」という意味になる。
(※)順に受け……順境として受ける試練と前向きにとらえる。本項の解釈については、本書の前集5条、127条も参照。
【原文】
天之機緘不測。抑而伸、伸而抑。皆是播弄英雄、顚倒豪杰處。君子只是逆來順受、居安思危。天亦無所用其伎倆矣。
69 せっかちな人、思いやりのない人、頑固な人になってはいけない
【現代語訳】
せっかちで心が乾いている気性の激しい人は、燃えさかる炎のようであり、出会う者を焼き尽くしてしまう。思いやりがなく恩情の少ない人は、氷のように冷たく、出会う者の生気を奪う。融通のきかない頑固な人は、よどんだ水や腐った木のように、出会う者を生き生きとさせない。このような人たちは、事業を起こしたり、人の幸福をはかったりできず、何をやってもうまくいかない。
【読み下し文】
燥性(そうせい)(※)の者(もの)は火(ひ)のごとく熾(さか)んに、物(もの)に遇(あ)えば則(すなわ)ち焚(や)く。寡恩(かおん)の者(もの)は氷(こおり)のごとく清(きよ)く(※)、物(もの)に逢(あ)えば必(かなら)ず殺(さい)す(※)。凝滞固執(ぎょうたいこしゅう)する者(もの)は、死水腐木(しすいふぼく)(※)の如(ごと)く、生機(せいき)已(すで)に絶(た)ゆ。俱(とも)に功業(こうぎょう)を建(た)て福祉(ふくし)を延(の)べ難(がた)し。
(※)燥性……せっかち。心が乾いている。気性が激しい。
(※)清く……冷たい。涼しい。本項の解釈については、本書の前集72条、160条も参照。
(※)殺す……ここでは、生気を奪うこと。へらすこと。
(※)死水腐木……よどんだ水と腐った木。
【原文】
燥性者火熾、遇物則焚。寡恩者氷淸、逢物必殺。凝滯固執者、如死水腐木、生機已絕。俱難建功業而延福祉。
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