第34回
97〜99話
2020.02.13更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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97 心を円満に、おおらかに平穏とさせておく
【現代語訳】
自分の心をいつも円満に心がけておけば、この世の不平、不満はなくなる。自分の心をいつもおおらかに平穏にしておけば、この世からとげとげしさはなくなる。
【読み下し文】
此(こ)の心(こころ)常(つね)に看(み)得(え)て円満(えんまん)ならば、天下(てんか)自(おの)ずから欠陥(けっかん)の世界(せかい)無(な)し。此(こ)の心(こころ)常(つね)に放(はな)ち得(え)て寛平(かんぺい)(※)ならば、天下(てんか)自(おの)ずから険側(けんそく)(※)の人情(にんじょう)無(な)し。
(※)寛平……おおらかで平穏。寛大で平穏。広くて穏やか。
(※)険側……とげとげしい。険しくそばだつ。
【原文】
此心常看得圓滿、天下自無缺陥之世界。此心常放得寛平、天下自無險側之人情。
98 人の生き方をあれこれ指図しない
【現代語訳】
万事飾らなくてあっさりとした人は、派手でしつこい人から疑われて嫌がられる。正しくも厳格であろうとする人は、だらしなくいい加減な人に嫌がられる。しかし、だからといって、君子は自分の正しいと思う生き方を変えるべきではない。ただ、自分の生き方をことさら露(あら)わにするのは(他人にまで強要するのは)、いきすぎである。
【読み下し文】
澹白(たんぱく)(※)の士(し)は、必(かなら)ず濃艶(のうえん)なる者(もの)(※)の疑(うたが)う所(ところ)と為(な)り、検飭(けんちょく)(※)の人(ひと)は、多(おお)くは放肆(ほうし)なる者(もの)の忌(い)む所(ところ)と為(な)る。君子(くんし)は此(これ)に処(しょ)して、固(もと)より少(すこ)しも其(そ)の操履(そうり)(※)を変(へん)ずべからず、亦(ま)た太(はなは)だ其(そ)の鋒芒(ほうぼう)(※)を露(あら)わすべからず。
(※)澹白……飾らなくてあっさりとした人。
(※)濃艶なる者……派手でしつこい人。
(※)検飭……正しくて厳しい人。原文の「飭」を「飾」とする文献もある。
(※)操履……自分が実践している正しい生き方や主張。なお、後集128も参照。
(※)鋒芒……ほこ先。ここでは、自分の正しいと思う生き方にこだわること。なお、『論語』では、「君子は和して同ぜず」(子路第十三)といっているのが参考になる。
【原文】
澹泊之士、必爲濃艷者所疑、檢飭之人、多爲放肆者所忌。君子處此、固不可少變其操履、亦不可太露其鋒芒。
99 逆境で人は心も行いも磨かれる
【現代語訳】
逆境にあるときは、すべてのものが鍼(はり)や薬となり、心も行いも磨かれる。しかし、それを本人は気づかない。これに対して順境のときは、目の前のすべてが凶器になり、体はとかされ、骨は削られる。しかし、本人は気づきもしない。
【読み下し文】
逆境(ぎゃっきょう)(※)の中(なか)に居(お)らば、周身(しゅうしん)、皆(みな)鍼砭(しんぺん)(※)薬石(やくせき)(※)にして、節(せつ)を砥(と)ぎ行(こう)を礪(みが)きて、而(しか)も覚(さと)らず。順境(じゅんきょう)の内(うち)に処(お)らば、満前(まんぜん)、尽(ことごと)く兵刃戈矛(へいじんかぼう)(※)にして、膏(あぶら)(※)を銷(とか)し骨(ほね)を靡(び)して、而(しか)も知(し)らず。
(※)逆境……苦難ばかりの思うようにならない大変な境遇。順境の逆。なお、吉田松陰は『講孟箚記』の序で次のように述べている。「富順境(じゅんきょう)なり。貧賤艱難(ひんせんかんなん)は逆境(ぎゃっきょう)なり。境(きょう)の順(じゅん)なる者(もの)は怠(おこた)り易(やす)く、境(きょう)の逆(ぎゃく)なる者(もの)は励(はげ)み易(やす)し。怠(おこた)れば則(すなわ)ち失(うしな)い、励(はげ)めば則(すなわ)ち得(え)るは、是(これ)人(ひと)の常(つね)なり」という。また、本項の解釈については、本書の前集5条、68条、127条参照。
(※)鍼砭……鍼は金属の針、砭は石の針。鍼治療は今でも日本や中国で盛んに行われている。また、灸(きゅう)と合わせて鍼灸(しんきゅう)とも呼ばれる。
(※)薬石……薬と石針。なお、前集146条参照。
(※)兵刃戈矛……刀剣やほこ。
(※)膏……体。あぶら。肥えた肉。
【原文】
居逆境中、周身皆鍼砭藥石、砥節礪行、而不覺。處順境內、滿歬盡兵刄戈矛、銷膏靡骨、而不知。
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