第49回
142〜144話
2020.03.06更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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142 言葉で人を助けることもできる
【現代語訳】
士君子というものは、貧乏でお金があまりなく、人を物質的に助けてやることはできないかもしれない。しかし、たとえば愚かで迷っている人に会ったときは、ただの一言で迷いから目を覚まさせ、また危難で苦しんでいる人に会ったときは、一言でその苦しみから救ってやれる。こういうことも最大の社会奉仕となる功徳であろう。
【読み下し文】
士君子(しくんし)(※)は貧(ひん)にして物(もの)を済(すく)う(※)こと能(あた)わざる者(もの)なるも、人(ひと)の痴迷(ちめい)(※)の処(ところ)に遇(あ)いては、一言(いちげん)を出(いだ)して之(これ)を提醒(ていせい)(※)し、人(ひと)の急難(きゅうなん)の処(ところ)に遇(あ)いては、一言(いちげん)を出(いだ)して之(これ)を解救(かいきゅう)す。また是(こ)れ無量(むりょう)の功徳(くどく)なり。
(※)士君子……本書の前集60条参照。
(※)物を済う……金銭などの物を与えることで救う。アメリカの思想家で、後に紹介するソローの理解者・友人でもあった、私の好きなエマーソンの次の言葉も本項の趣旨に合う。「心の奥底に達してあらゆる病を癒せる音楽、それは温かい言葉だ」。
(※)痴迷……愚かで迷う。
(※)提醒……目を覚まさせる。
【原文】
士君子貧不能濟物者、遇人癡迷處、出一言提醒之、遇人急難處、出一言解救之。亦是無量功德。
143 目先の状況で軽々しく変わってはいけない
【現代語訳】
空腹のときは寄ってくるが、満腹になれば飛び散ってしまう。また、こちらが裕福なときは集まってくるが、落ち目となり貧乏になると見捨てて寄りつかない。これが人情の一般で、寂しいところではある。しかし、君子たるものは、物事を冷静に見つめることのできる眼を養いたい(また目をぬぐい清めたい)ものだ。目先の状況で軽々しく変わる薄っぺらい人にはならないようにすべきである。
【読み下し文】
饑(う)うれば則(すなわ)ち附(つ)き(※)、飽(あ)けば則(すなわ)ち颺(あが)り(※)、燠(あたた)か(※)なれば則(すなわ)ち趨(おもむ)き、寒(さむ)ければ則(すなわ)ち棄(す)つるは、人情(にんじょう)の通患(つうかん)なり。君子(くんし)は宜(よろ)しく当(まさ)に冷眼(れいがん)を浄拭(じょうしょく)(※)すべし。慎(つつし)んで軽〻(かるがる)しく剛腸(ごうちょう)(※)を動(うご)かすこと勿(な)かれ。
(※)附き……まつわりつく。寄ってくる。人が寄ってきたり離れたりすることについては、本書の前集169条も参照。
(※)颺り……とび散る。
(※)燠か……裕福な。
(※)浄拭……ぬぐい清める。
(※)剛腸……何ものにも屈しない気質。強くてどっしりとした人柄。本項の解釈については、本書の前集169条も参照。
【原文】
饑則附、飽則颺、燠則趨、寒則棄、人情通患也。君子宜當淨拭冷眼。愼勿輕動剛腸。
144 人格を向上するためには見識を広め、度量を大きくしていかなければならない
【現代語訳】
人格(徳)は、その人の度量(心の広さ)で向上し、度量は、見識(正しい考え方と知識)で成長する。よって人格を向上させようと思うなら、度量を大きくしなければならない。また、度量を大きくしようとするならば見識を広めていかなくてはならない。
【読み下し文】
徳(とく)は量(りょう)(※)に随(したが)って進(すす)み、量(りょう)は識(しき)(※)に由(よ)って長(ちょう)ず。故(ゆえ)に其(そ)の徳(とく)を厚(あつ)くせんと欲(ほっ)すれば、其(そ)の量(りょう)を弘(ひろ)くせざるべからず。其(そ)の量(りょう)を弘(ひろ)くせんと欲(ほっ)すれば、其(そ)の識(しき)を大(だい)にせざるべからず。
(※)量……度量。
(※)識……見識。なお、見識を広めるために、吉田松陰は「天下(てんか)の賢能(けんのう)に交(まじ)わり、天下(てんか)の書籍(しょせき)を読(よ)む」ことの二つをすすめている(『将及私言』)。
【原文】
德隨量進、量由識長。故欲厚其德、不可不弘其量。欲弘其量、不可不大其識。
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