第52回
151〜153話
2020.03.11更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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151 何事も細心の注意をもってかかる
【現代語訳】
ちょっとした出来心が神の怒りを招き、ただ一度の失言が天地の和を傷つけてしまい、たった一度の過失が子孫にまで禍いを及ぼすことがある。こうしたことを念頭において、たとえ小さなことでも、細心の注意をしてかからなくてはならない。
【読み下し文】
一念(いちねん)(※)にして鬼心(きしん)の禁(きん)を犯(おか)し、一言(いちげん)にして天地(てんち)の和(わ)を傷(やぶ)り、一事(いちじ)にして子孫(しそん)の禍(わざわ)いを醸(かも)す者(もの)有(あ)り。最(もっと)も宜(よろ)しく切(せつ)に(※)戒(いまし)むべし。
(※)一念……ちょっとした出来心。ふとしたでき心。
(※)最も宜しく切に……小さなことでも、細心の注意をして。なお、佐藤一斎の『言志四録』にも「真(しん)に大志(たいし)ある者(もの)は、克(よ)く小物(しょうぶつ)を勤(つと)め、真(しん)に遠慮(えんりょ)ある者(もの)は、細事(さいじ)を忽(ゆるがせに)せず」とある。ドイツの美術史家アビ・ヴァールブルクの名言「神は細部に宿る」も本項の参考になる。
【原文】
有一念而犯鬼神之禁、一言而傷天地之和、一事而釀子孫之禍者。最宜切戒。
152 物事は急ぎすぎても良くない
【現代語訳】
物事には急いでも、明らかにならないことがある。かえって、じっくりと構えていれば自然と明らかになることもある。あまり急ぎすぎて、人の怒りを招いてもしかたない。人を使おうと思っても、容易に従わない者もいる。こういうときも、しばらく放っておくと、自分から変わって動いてくれることがある。無理に使おうとして、さらに頑固にさせてはならない。
【読み下し文】
事(こと)は之(これ)を急(きゅう)にして白(あき)らか(※)ならざるもの有(あ)り。之(これ)を寛(かん)にせば或(ある)いは自(おの)ずから明(あき)らかならん。躁急(そうきゅう)にして以(もっ)て其(そ)の忿(いか)りを速(まね)く(※)こと毋(な)かれ。人(ひと)は之(これ)を操(と)りて従(したが)わざる者(もの)有(あ)り。之(これ)を縦(はな)てば或(ある)いは自(おの)ずから化(か)せん。操(と)ること切(せつ)にして以(もっ)て其(そ)の頑(がん)を益(ま)すこと毋(な)かれ。
(※)白らか……わかる。明白。
(※)速く……招く。
【原文】
事有急之不白者、寛之或自明。毋躁急以速其忿。人有操之不從者。縱之或自化。毋操切以益其頑。
153 一時の血気や小手先の技芸では一流となれない
【現代語訳】
見た目の節操と道義は、宰相、大臣よりも立派で、その学問や教養は、あたかも名曲『白雪』をしのぐかに見えても、それが表面的なものでしかなければ意味がない。それらが、優れた徳性で磨き上げられたものでないとだめである。一時の血気、小手先の技芸だけでは、世のなかに通用する一流のものとはいえない。
【読み下し文】
節義(せつぎ)は青雲(せいうん)(※)に傲(おご)り、文章(ぶんしょう)(※)は白雪(はくせつ)(※)より高(たか)きも、若(も)し徳性(とくせい)を以(もっ)て之(これ)を陶鎔(とうよう)(※)せざれば、終(つい)に血気(けっき)の私(し)、技能(ぎのう)の末(すえ)と為(な)らん。
(※)青雲……宰相、大臣。あおぎ見られることから高位高官の意。
(※)文章……本書の前集147条参照。
(※)白雪……名曲といわれた楚の楽曲の名。
(※)陶鎔……優れた徳性を磨き上げる。鍛錬、修養、陶器や金物をつくるように、だんだん徳性を磨き上げること。なお、『論語』で孔子は、「人(ひと)にして不仁(ふじん)ならば、礼(れい)を如何(いかん)。人(ひと)にして不仁(ふじん)ならば、楽(がく)を如何(いかん)」(八佾第三)という。つまり、すべては心が込もり、徳があってこそ中身も本物となることを述べている。
【原文】
節義傲靑雲、文章高白雪、若不以德性陶鎔之、終爲血氣之私技能之末。
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