第59回
172〜174話
2020.03.23更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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172 いつも心を落ちつかせて、すっきりした心と目を持っていたい
【現代語訳】
何も起こらないような平穏無事のとき、えてして心がぼんやりとして、物をいい加減に見てしまいがちである。このようなときこそ、心を落ちつかせ、その上ですっきりとした心と目で物を見るようにしたい。逆に事が起きたとき、心がはやりがちになってしまいがちである。このようなときも、心と目をすっきりとさせておき、心が落ちつくようにしたい。
【読み下し文】
事(こと)無(な)きの時(とき)は、心(こころ)昏冥(こんめい)になり易(やす)し。宜(よろ)しく寂寂(せきせき)(※)にして、照(て)らすに惺惺(せいせい)(※)を以(もっ)てすべし。事(こと)有(あ)るの時(とき)は、心(こころ)奔逸(ほんいつ)(※)し易(やす)し。宜(よろ)しく惺惺(せいせい)にして、主(しゅ)とするに寂寂(せいせき)を以(もっ)てすべし。
(※)寂寂……落ちついて静かなこと。
(※)惺惺……心や目がすっきりと澄んでいること。
(※)奔逸……はやる。勝手きままに動く。本項の解釈については、本書の前集8条も参照。
【原文】
無事時、心易昏冥。宜寂寂而照以惺惺。有事時、心易奔逸。宜惺惺而主以寂寂。
173 検討するときは客観的立場でやり、実行するときは当事者としてやる
【現代語訳】
物事を議論し検討するときは、自分を客観的にさせ、外からの視点から利害得失を十分に検討すべきである。しかし、決まったことを実行する立場に任命されたら、当事者としてもはや議論、検討する際の利害得失など忘れ、それに打ち込んでやらなければならない。
【読み下し文】
事(こと)を議(ぎ)する者(もの)は、身(み)、事(こと)の外(そと)に在(あ)りて、宜(よろ)しく利害(りがい)の情(じょう)を悉(つく)す(※)べし。事(こと)に任(にん)ずる者(もの)は、身(み)、事(こと)の中(なか)に居(お)りて、当(まさ)に利害(りがい)の慮(おもんばか)りを忘(わす)るべし。
(※)悉す……知りつくす。よく考える。十分に検討する。『孫子』も「智者(ちしゃ)の慮(りょ)は、必(かなら)ず利害(りがい)に雑(まじ)う」(九変篇)とし、利害の得失を十分に検討しなければならないとする。なお、本項は現代の自由主義と民主主義のルールに合うことを厳守せよと述べており、その先見性に驚く。
【原文】
議事者、身在事外、宜悉利害之情。任事者、身居事中、當忘利害之慮。
174 要職にあるときは悪いやつらに十分注意する
【現代語訳】
士君子たるもの権力ある立場や重要な仕事についたとき、仕事は公明正大に厳しくやらなければならない。それとともに人と接する場合は、穏やかで親しみやすくなければならない。このとき、いい気になって悪者の臭いを放っている者たちに近づき、私利私欲のやからに利用されてはいけない。また、過激になりすぎて、ハチやサソリのような毒を持った悪いやつらに刺されないようにしなければならない。
【読み下し文】
士君子(しくんし)、権門要路(けんもんようろ)(※)に処(お)れば、操履(そうり)(※)は厳明(げんめい)なるを要(よう)し、心気(しんき)は和(わ)易(い)なるを要(よう)す。少(すこ)しも随(したが)いて腥羶(せいせん)の党(とう)(※)に近(ちか)づくこと毋(な)かれ。亦(ま)た過激(かげき)にして蜂蠆(ほうたい)(※)の毒(どく)に犯(おか)さるること毋(な)かれ。
(※)権門要路……権力のある立場や重要な仕事。
(※)操履……行い。
(※)腥羶の党……悪者の臭いを放っている者たち。「腥」は魚肉の臭い、「羶」は獣肉の臭いを指し、悪者の臭いをたとえている。なお、本項の解釈は、本書の前集111条参照。
(※)蜂蠆……ハチとサソリ。
【原文】
士君子處權門要路、操履要嚴明、心氣要和易。毋少隨而近腥羶之黨。亦毋過激而犯蜂蠆之毒。
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