第65回
190〜192話
2020.03.31更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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190 名声好きでええかっこしいには注意が必要
【現代語訳】
私利私益ばかりを考える者は、初めから道義など無視するので、その害はわかりやすいため被害も案外大したことなくなる。しかし、名声好きの者は、道義の名に隠れて悪事を働くので、その害はわかりにくく、取り返しのつかないほど大きいことになる。
【読み下し文】
利(り)を好(この)む者(もの)は、道義(どうぎ)の外(そと)に逸出(いつしゅつ)し、其(そ)の害(がい)顕(あら)われて浅(あさ)し。名(な)を好(この)む者(もの)は、道義(どうぎ)の中(なか)に竄入(ざんにゅう)(※)し、其(そ)の害(がい)隠(かく)れて深(ふか)し。
(※)竄入……隠れる。もぐり込む。わからないように悪事を行う。なお、『孫子』が用間(スパイ)で最も重視するのが反間(二重スパイ)である。反間の効果が大きいのは味方(正義)だと思っているのが、実は敵(悪)だからである(用間篇参照)。厳密には反間とはちがうが、友好、平和の名を語り、実は何らかの仕掛けにはまってしまっていて外国の利のために動く政治家、外交官、ジャーナリストそしてメディアなども本項にいう、「道義のなかに竄入」した者であろう。
【原文】
好利者、逸出於衜義之外、其害顯而淺。好名者、竄入於衜義之中、其害隱而深。
191 極めて心の冷たい人の特徴
【現代語訳】
人から受けた恩がどんなに深いものであっても、それに報いないくせに、ちょっとしたささいなうらみには、必ず仕返しをする。人の悪い評判については、単なるうわさにすぎなくてもすぐに信じるくせに、人の善いうわさについては、明らかにわかっていることでもなかなか信じない。こうした人間は、極めて心が冷たい。こういう人間にはならないようにしたいものだ。
【読み下し文】
人(ひと)の恩(おん)を受(う)けては、深(ふか)しと雖(いえど)も報(むく)いず、怨(うら)みは則(すなわ)ち浅(あさ)きも亦(ま)た之(これ)を報(むく)ゆ。人(ひと)の悪(あく)を聞(き)いては、隠(かく)れたり(※)と雖(いえど)も疑(うたが)わず。善(ぜん)は則(すなわ)ち顕(あら)わるるも亦また之これを疑(うたが)う。此(こ)れ刻(こく)の極(きょく)(※)、薄(はく)の尤(ゆう)(※)なり、宜(よろ)しく之(これ)を戒(いまし)むべし。
(※)隠れたり……はっきりしない。うわさにすぎない。
(※)刻の極……極めて。「刻」も「極」も同じ意味で極まりないこと。
(※)尤……はなはだしいこと。本項の解釈については、本書の前集51条も参照。
【原文】
受人之恩、雖深不報、怨則淺亦報之。聞人之惡、雖隱不疑、善則顯亦疑之。 此刻之極、薄之尤也、宜切戒之。
192 こびへつらう者は人をだめにする存在である
【現代語訳】
私に対する中傷や悪口は、少しの雲がしばらくの間だけ太陽を隠すようなものである。そのうちに事実は明らかになる。これに対して、こびへつらう者は、ちょっとしたすき間風が肌を刺し、知らぬ間に風邪をひいてしまっているようなもので、自分をだめにする存在である。
【読み下し文】
讒夫毀士(ざんぶきし)(※)は、寸雲(すんうん)の日(ひ)を蔽(おお)うが如(ごと)く、久(ひさ)しからずして自(おの)ずから明(あき)らかなり。媚子阿人(びしあじん)(※)は、隙風(げきふう)(※)の肌(はだ)を侵(おか)すに似(に)て、其(そ)の損(そこな)うを覚(おぼ)えず。
(※)讒夫毀士……中傷や悪口を言う者。
(※)媚子阿人……こびへつらう者。前集207条参照。
(※)隙風……すきま風。
【原文】
讒夫毀士、如寸雲蔽日、不久自明。媚子阿人、似隙風侵肌、不覺其損。
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