第75回
220〜222話
2020.04.14更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら
220 いろんな場面での態度でその人の人物の程がわかる
【現代語訳】
君子というものは、苦難、困難に出会っても、くよくよせずに平然と対処していくが、宴会などの楽しみの場では、はめをはずさないようにと心を引き締める。また、権力のある者、偉い人に接しても、おじけ恐れることなどないが、困窮してかわいそうな人を見ると、心を痛め、心配する。
【読み下し文】
君子(くんし)は患難(かんなん)に処(しょ)して憂(うれ)えず、宴遊(えんゆう)に当(あ)たりて惕慮(てきりょ)(※)す。権豪(けんごう)に遇(あ)いて懼(おそ)れず、惸独(けいどく)(※)に対(たい)して心(こころ)を驚(おどろ)かす。
(※)惕慮……心を引き締める。恐れ心配する。酒の飲み方については、本書の後集10条、17条、123条参照。
(※)惸独……困窮してかわいそうな人。身寄りのないかわいそうな人。「惸」は兄弟のない人。「独」は子孫のない人を意味する。ここでは、日本の「武士道」が大切にしてきた「弱きを助け、強きを挫(くじ)く」の思想を述べているが、これも『菜根譚』が日本人の共感を得たところの一つでもある。
【原文】
君子處患難而不憂、當宴遊而惕慮。遇權豪而不懼、對惸獨而驚心。
221 一時の良さや派手さよりずっと続いていくものが良い
【現代語訳】
桃やすももの花はとてもあでやかで美しいが、松や柏が四季を通じていつも青々して美しいのには、かなわないところがある。梨やあんずは甘くておいしいが、黄色いだいだいや緑のみかんの香り高い芳しさにかなわないところがある。このように、短命であでやかで派手なものは、あっさりとはしているが長く持つものにはかなわないところがある。また早熟は、晩成にかなわないところがある。
【読み下し文】
桃李(とうり)(※)は艶(えん)なりと雖(いえど)も、何(なん)ぞ松蒼柏翠(しょうそうはくすい)(※)の堅貞(けんてい)なるに如(し)かん。梨杏(りきょう)は甘(あま)しと雖(いえど)も、何(なん)ぞ橙黄橘緑(とうおうきつりょく)(※)の馨冽(けいれつ)(※)なるに如(し)かん。信(まこと)なるかな、濃夭(のうよう)(※)は淡久(たんきゅう)に及(およ)ばず、早秀(そうしゅう)は晩成(ばんせい)(※)に如(し)かざることや。
(※)桃李……ももとすもも。花は美しく、実はおいしい。ただ、早く散り、痛みやすい果物の代表。
(※)松蒼柏翠……松の青、柏の緑。松と柏は常緑樹の代表。淡久の例として挙げる。
(※)橙黄橘緑……黄色いだいだい(現代のだいだいは緑色から黄色、そしてだいだい色になるが)と緑のみかん(現代のみかんの多くは緑色から黄色、そしてオレンジ色になるが)。ここでは晩成の例として挙げる。
(※)馨冽……香り高くて芳しい。本書の前集196条参照。
(※)濃夭……濃艶で夭折(早死にする)。
(※)晩成……遅くできる(早秀、早生の反対)。本物。なお、『老子』に「大器は晩成し」(同異第四十一)とある。
【原文】
桃李雖艷、何如松蒼柏翠之堅貞。梨杏雖甘、何如橙黄橘綠之馨冽。信乎、濃夭不及淡久、早秀不如晚成也。
222 人生は波乱万丈のときもあるが、静かで平凡な暮らしのなかに人間本来の姿がある
【現代語訳】
人生は波乱万丈の面がある。しかし、ときには、あるいは晩年には、風がやすらかに吹き、波も静かなときがくる。こんなとき人生の本当の姿を見ることができるものだ。また、人生には派手でにぎやかなことを求める風潮もある。しかし、なかには淡白な味を楽しみ、静かで声もあまり聞こえない質素な暮らしを味わう人もある。こういうところに人間本来の姿があるのがわかる。
【読み下し文】
風(かぜ)恬(やす)らか(※)に浪(なみ)静(しず)かなる中(なか)に、人生(じんせい)の真境(しんきょう)(※)を見(み)る。味(あじ)淡(あわ)く声(こえ)希(まれ)なる処(ところ)に、心体(しんたい)の本然(ほんぜん)(※)を識(し)る。
(※)恬らか……やすらか。
(※)真境……本当の姿。
(※)心体の本然……人間本来の姿。心と体の本来の姿。
【原文】
風恬浪靜中、見人生之眞境。味淡聲希處、識心體之本然。
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く