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第106回

91〜93話

2020.06.02更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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91 精神のはたらきは感度良く活発にするのが良い


【現代語訳】
すべての物音がなくて寂しい感じのなかで、ひとたび鳥が鳴き声を一つあげるのを聞くと、多くの幽玄な味わいが呼び起こされる。また、ほとんどの草花が枯れしぼんでしまった後で、一枝が抜き出て花を咲かせているのを見ると、無限の生命のはたらきが存在していることがわかるようになる。以上のようなことから、人間の本性というものは、いつも枯れてしまっているのではなく、精神のはたらきを事に触れさせ、物に応じてうまく活発にさせるのが良いとわかる。

【読み下し文】
万籟(ばんらい)(※)寂寥(せきりょう)の中(なか)、忽(たちま)ち一鳥(いっちょう)の弄声(ろうせい)(※)を聞(き)けば、便(すなわ)ち許多(きょた)の幽趣(ゆうしゅ)を喚(よ)び起(お)こす。万卉摧剝(ばんきさいはく)(※)の後(のち)、忽(たちま)ち一枝(いっし)の擢秀(てきしゅう)(※)を見(み)れば、便(すなわ)ち無限(むげん)の生機(せいき)(※)を触(ふ)れ動(うご)かす。見(み)るべし、性天(せいてん)未(いま)だ常(つね)には枯槁(ここう)せず、機神(きしん)(※)最(もっと)も宜(よろ)しく触発(しょくはつ)すべきを。

(※)万籟……すべての物音。
(※)一鳥の弄声……鳥の鳴き声一つ。
(※)万卉摧剝……ほとんどの草花が枯れしぼむ。
(※)一枝の擢秀……一枝が抜き出て花を咲かせる。
(※)生機……生命のはたらき。
(※)機神……活発な精神のはたらき。本項の解釈については、本書の前集22条、196条、後集14条も参照。

【原文】
萬籟寂寥中、忽聞一鳥弄聲、便喚起許多幽趣。萬卉摧剝後、忽見一枝擢秀、便觸動無限生機。可見、性天未常枯槁、機神最宜觸發。

 

92 身心を自由自在に操る


【現代語訳】
白居易(白楽天)は言う。「身心を解き放って自由にし、目をつぶって自然に任せきるのが良い」。一方、晁補之(ちょうほし)晁无咎(ちょうむきゅう)は言う。「身心を収めて、集中して禅定に入り心を安定させるのが最も良い」。思うに、前者のように身心を解き放って自由にすると、激しく狂ってしまいわけのわからないことにもなるし、後者のように収めて取り締まりすぎると、枯れてしまって面白味もなくなる。だから身心をよく扱いこなし、要点を押さえた上で、解き放つのも引き締め集中するのも自由自在に操るのが理想であろう。

【読み下し文】
白氏(はくし)云(い)う、「身心(しんしん)を放(はな)ちて、冥然(めいぜん)(※)として天造(てんぞう)に任(まか)すに如(し)かず」。晁氏(ちょうし)(※) 云(い)う、「身心(しんしん)を収(おさ)めて、凝然(ぎょうぜん)として寂定(じゃくじょう)に帰(き)するに如(し)かず」。放(はな)つ者(もの)は流(なが)れて猖狂(しょうきょう)(※)となり、収(おさ)むる者(もの)は枯寂(こじゃく)に入(い)る。唯(た)だ善(よ)く身心(しんしん)を操(と)る的(もの)のみ、欛柄(はへい)(※) 手(て)に在(あ)り、収放(しゅうほう)自如(じじょ)たり。

(※)冥然……目をつぶる。暗い。
(※)晁氏……北宋の詩人。晁補之。字(あざな)は无咎。
(※)猖狂……激しく狂う。度がすぎる。
(※)欛柄……要所、要所。

【原文】
白氏云、不如放身心、冥然任天造。晁氏云、不如收身心、凝然歸寂定。放者流爲猖狂、收者入於枯寂。唯善操身心的、欛柄在手、收放自如。

 

93 自然とともに生きる喜び


【現代語訳】
雪景色を月が照らしているのを見ると、こちらの心も清らかに透き通るようである。のどかな春風に吹かれると、こちらの気持ちも自然になごんでくる。こうしてみると、自然と人間の心とは、ともに一体のものであって、少しもすき間はないのだ。

【読み下し文】
雪夜(せつや)月天(げってん)に当(あ)たれば、心境(しんきょう)は便(すなわ)ち爾(しか)く(※)澄徹(ちょうてつ)す。春風(しゅんぷう)和気(わき)に遇(あ)えば、意界(いかい)(※)も亦(ま)た自(おの)ずから沖融(ちゅうゆう)(※)す。造化(ぞうか)(※)人心(じんしん)は、混合(こんごう)して間(かん)無(な)し(※)。

(※)爾く……そのように。かくの如く。
(※)意界……気持ち。
(※)沖融……なごむ。やわらぐ。
(※)造化……自然。
(※)間無し……少しもすき間がない。なお。本項も万物一体論に通じている。本項と似た内容としては、本書の前集103条、後集61条がある。

【原文】
當雪夜月天、心境便爾澄徹。遇春風和氣、意界亦自沖融。造化人心、混合無閒。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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