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論語 全文完全対照版 野中根太郎

第101回

278話

2016.12.16更新

読了時間

【 この連載は… 】 毎日数分で「東洋最大の教養書」を読破しよう! 『超訳 孫子の兵法』の野中根太郎氏による、新訳論語完全版。読みやすく現代人の実生活に根付いた超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。

278 弟子それぞれの志を見守る孔子の愛


【現代語訳】

子路(しろ)、曾晳(※)、冉有(ぜんゆう)、公西華(こうせいか) の四人が孔子先生のお側(そば)に侍(はべ)っていた時、先生は言われた。「私がお前たちより多少、年上だからといって遠慮することはない。お前たちはいつも『誰も自分の才能をわかってくれない(用いてくれない)』と不平を言っている。もし、お前たちのことをわかって、用いてくれる人がいたなら何をしたいのか言ってみてくれ」。

すると子路がいきなり口を開いた。「兵車千乗程度の国が、万乗の大国の間にはさまり、戦争になってしまったとします。しかも、飢饉で食糧難にもなってしまった。このような時に私が政治を任されたならば、三年もあれば国民に勇気を回復させ、かつ国民みんなが道をわきまえているような立派な国にしてみせましょう」。先生は、子路らしい元気あふれる言葉を聞いて、思わず笑われた。そして、冉求(冉有)に「お前はどうか」とたずねられた。

冉求は言った。「私は兵車千乗の国とまでいかなくても六、七十里四方、あるいは五、六十里四方ほどの小国で政治を任されたならば、三年たったころには、国民の生活を安定させることができると思います。しかし、礼楽(※)の教えを国民に広めることなどは私には力及びませんので、別の君子にお願いしなければなりません」。先生は続いて公西華に、「お前はどうだ」と言われた。

公西華は言った。「私にできるということではなく、学びながらやってみたいことは、君主の先祖の御廟の祭祀や国際的な会合の時に、玄端の服(礼服)を着、章しようほ甫の冠(礼冠)をかぶって礼儀を助ける小相(※)の役目を果たしたいと思います」。先生は最後に曾そう晳せきに向かって、「お前はどうか」とたずねられた。

曾晳はそれまで瑟(大瑟)を会話のじゃまにならないようにと弾いていたが、コトリと音をさせて瑟を置き、立ち上がって言った。「私のは三人の抱負と少し違いますので」と遠慮した。

先生は言った。「遠慮することなどない。それぞれの思いを言っているだけだよ」。

すると曾晳は言った。「晩春のよい季節に、新しく仕立てた服に着がえ、五、六人の若者、六、七人の少年たちと一緒に沂(き)にある温泉に入り、舞雩(※)の雨乞台(あまごいだい)でひと涼(すず)みして、鼻歌(はなうた)でもうたいながらブラブラと帰ってきたいものです」。

これを聞いた先生は、「ああいいね」と嘆息されて、「私もその仲間に加わりたいものだね」と言われた。他の三人が先に退室して曾晳が残った。そこで曾晳は先生に三人の言葉の感想を聞いてみた。

先生は言われた。「それぞれ自分の志を言ったまでで、よいことだ」。

曾晳はたずねた。「では、先生はどうして由(子路)の時、お笑いになったのですか」。

先生は言われた。「国を治めるのには礼が必要なのに、由(子路)の言葉の中に、そのことが抜けていたからだ」。

曾晳はたずねた。「それでは、求(冉求)の言葉は、国を治めるという志ではなかったのですか」。

先生は言われた。「いや、六、七十里四方、五、六十里四方でも国には相違ない」。求は、謙遜して小国の経済のことを述べたのだ。子路に比べて礼儀が見える。

曾晳はたずねた。「では、赤(公西華)の志はどうでしょうか。政治のことではないように見えますが」。

先生は言われた。「君主の御廟の祭祀や国際的な会合が諸侯の重大事でなくて何であろう。政治に違いない。赤が小相なら、誰が大相(※)となれようか。これを赤が謙遜して言っているのだ」。


(※)曾晳……孔子の門人。孔子より十二、三歳年少といわれている。曾は姓。名は点。晳は字。曾子の父。

(※)礼楽……礼と楽の制度によって良心を感化、安定、充実させること。礼儀と音楽。

(※)小相……相とは君の礼を輔佐する役。小とは謙遜としてつけた形容詞。大臣に対しての次官などの意。

(※)舞雩……天を祭り、雩(あまごい)をする築山(つきやま)。

(※)大相……小相に対してその上の地位を表す。大臣、長官。


【読み下し文】

子路(しろ)、曾晳(そうせき)、冉有(ぜんゆう)、公西華(こうせいか) 、侍(じ)坐(ざ)す。子(し)曰(いわ)く、吾(われ)一日(いちじつ)爾(なんじ)に長(ちょう)ずるを以(もっ)て、吾(われ)を以(もっ)てする毋(なか)れ。居(お)りては則(すなわ)ち曰(いわ)く、吾(われ)を知(し)らざるなり、と。如(も)し或(ある)いは爾(なんじ)を知(し)らば、則(すなわ)ち何(なに)を以(もっ)てせんや。子路(しろ)、卒爾(そつじ)(※)として対(こた)えて曰(いわ)く、千乗(せんじょう)の国(くに)、大国(たいこく)の間(あいだ)に摂(はさ)まれ、之(これ)に加(くわ)うるに師旅(しりょ)(※)を以(もつ)てし、之(これ)に因(よ)るに飢饉(ききん)を以(もっ)てす。由(ゆう)や之(これ)を為(おさ)め、三年(さんねん)に及(およ)ぶ比(ころ)おい、勇(ゆう)有(あ)りて且(か)つ方(ほう)を知(し)らしむべきなり。夫子(ふうし) 、之(これ)を哂(わら)う。求(きゅう)、爾(なんじ)は如何(いかん)。対(こた)えて曰(いわ)く、方六(ほうろく)七十(しちじゅう)、如(も)しくは五六十(ごろくじゅう)、求(きゅう)や之(これ)を為(おさ)め、三年(さんねん)に及(およ)ぶ比(ころ)に、民(たみ)を足(た)らしむべきなり。其(そ)の礼楽(れいがく)の如(ごと)きは、以(もっ)て君子(くんし)を俟(ま)たん。赤(せき)、爾(なんじ)は如何(いかん)。対(こた)えて曰(いわ)く、之(これ)を能(よ)くすると曰(ひ)うには非(あら)ず。願(ねが)わくは之(これ)を学(まな)ばん。宗廟(そうびょう)の事(こと)、如(も)しくは会同(かいどう)に、端章甫(ずいしょうほ)して、願(ねが)わくは小相(しょうしょう)と為(な)らん。点(てん)、爾(なんじ)は如何(いかん)。瑟(しつ)を鼓(こ)すること希(まれ)なり。鏗爾(こうじ)(※)として瑟(しつ)を舎(お)きて作(た)つ。対(こた)えて曰(いわ)く、三子者(さんししゃ)の撰(せん)(※)に異(こと)なり。子(し)曰(いわ)く、何(なん)ぞ傷(いた)まんや。亦(ま)た各(おのおの)其(そ)の志(こころざし)を言(い)うなり。曰(いわ)く、莫春(ぼしゅん)には、春服(しゅんふく)既(すで)に成(な)る。冠(かん)する者(もの)(※)は五(ご) 、六人(ろくにん)、童子(どうじ)六(ろく)七(しち)人(にん)、沂(き)に浴(よく)し、舞雩(ぶう)に風(ふう)し、詠(えいじ)じて帰(かえ)らん。夫子(ふうし) 、喟然(きぜん)として歎(たん)じて曰(いわ)く、吾(われ)は点(てん)に与(くみ)せん。三子者(さんししゃ)出(い)づ。曾晳(そうせき)後(おく)る。曾晳(そうせき)曰(いわ)く、夫(か)の三子者(さんししゃ)の言(げん)は如何(いかん)。子(し)曰(いわ)く、亦(ま)た各(おのおの)其(そ)の志(こころざし)を言(い)うのみ。曰(いわ)く、夫子(ふう) 、何(なん)ぞ由(ゆう)を哂(わら)うや。曰(いわ)く、国(くに)を為(おさ)むるには礼(れい)を以(もっ)てす。其(そ)の言(げん)譲(ゆず)らず。是(こ)の故(ゆえ)に之(これ)を哂(わら)う。唯(た)だ求(きゅう)は則(すなわ)ち邦(くに)に非(あら)ざるか。安(いずく)んぞ方(ほう)六七十(ろくしちじゅう)、如(も)しくは五六十(ごろくじゅう)にして、邦(くに)に非(あら)ざる者(もの)を見(み)んや。唯(た)だ赤(せき)は則(すなわ)ち邦(くに)に非(あら)ざるか。宗廟(そうびょう)、会同(かいどう)は諸侯(しょこう)に非(あら)ずして之(これ)を如何(いかん)。赤(せき)や之(これ)が小(しょう)たらば、孰(たれ)か能(よ)く之(これ)が大(だい)たらん。


(※)卒爾……礼儀をわきまえない態度。いきなりの意。

(※)師旅……師は二千五百人、旅は五百人の軍隊をいう。また、ここでは戦争のことも意味する。

(※)鏗爾……瑟を下に置く時に出る音の形容。「コトリ」と音をさせる。

(※)撰……抱負。考え。

(※)冠する者……元服したばかりの若者。


【原文】

子路曾晳冉有公西華、侍坐、子曰、以吾一日長乎爾、毋吾以也、居則曰、不吾知也、如或知爾則何以哉、子路卛爾而對曰、千乘之國、攝乎大國之閒、加之以師旅、因之以飢饉、由也爲之、比及三年、可使有勈且知方也、夫子哂之、求爾何如、對曰、方六七十、如五六十、求也爲之、比及三年、可使足民、如其禮樂、以俟君子、赤爾何如、對曰、非曰能之、願學焉、宗廟之事、如會同、端章甫、願爲小相焉、點爾何如、鼓瑟希、鏗爾舍瑟而作、對曰、異乎三子者之撰、子曰、何傷乎、亦各言其志也、曰、莫春者春服既成、冠者五六人童子六七人、浴乎沂、風乎舞雩、詠而歸、夫子喟然歎曰、吾與點也、三子者出、曾晳後、曾晳曰、夫三子者之言何如、子曰、亦各言其志也已矣、曰、夫子何哂由也、曰、爲國以禮、其言不讓、是故哂之、唯求則非邦也與、安見方六七十如五六十而非邦也者、唯赤則非邦也與、宗廟會同非諸侯如之何、赤也爲之小、孰能爲之大、


*278話は長文のため、今回は1話のみの掲載となります。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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