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論語 全文完全対照版 野中根太郎

第196回

494話~495話

2017.05.10更新

読了時間

【 この連載は… 】 毎日数分で「東洋最大の教養書」を読破しよう! 『超訳 孫子の兵法』の野中根太郎氏による、新訳論語完全版。読みやすく現代人の実生活に根付いた超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。

494 孔子先生は日や月のようなものである


【現代語訳】

叔孫武叔が仲尼(孔子先生)の悪口を言った。

子貢は言った。「おやめなさい。仲尼を悪く言っても無駄ですよ。他の賢人というのは丘のようなもので、越えることもできるかもしれません。しかし、仲尼は日(太陽)や月のようなものです。越えることなどできません。それを悪く言って自分から絶交したところで、日や月の光をさえぎることなどできません。ただ自分の身のほど知らずを暴露することになるだけです」。


【読み下し文】

叔孫武叔(しゅくそんぶしゅく)、仲尼(ちゅうじ)を毀(そし)(※)る。子貢(しこう)曰(いわ)く、以(もっ)て為(な)す無(な)きなり。仲尼(ちゅうじ)は毀(そし)るべからざるなり。他人(たにん)の賢者(けんじゃ)は丘陵(きゅうりょう)なり。猶(な)お踰(こ)ゆべきなり。仲尼(ちゅうじ)は日月(じつげつ)なり。得(え)て踰(こ)ゆる無(な)し。人(ひと)自(みずか)ら絶(た)たんと欲(ほっ)すと雖(いえど)も、其(そ)れ何(なん)ぞ日月(じつげつ)に於(お)いて傷(やぶ)(※)らんや。多(まさ)に其(そ)の量(りょう)(※)を知(し)らざるを見(あらわ)(※)すなり。


(※)毀……悪口を言う。

(※)傷……傷つける。

(※)量……身の程。己の分量。

(※)見……「あらわす」と読み、自ら暴露することの意。


【原文】

叔孫武叔毀仲尼、子貢曰、無以爲也、仲尼不可毀也、他人之賢者丘陵也、猶可踰也、仲尼日月也、無得而踰焉、人雖欲自絕、其何傷於日月乎、多見其不知量也、


495 私ごときが孔子先生に及ぶことはできない


【現代語訳】

陳子禽(ちんしきん)が子貢に言った。「先生は謙遜にすぎます。孔子大先生だって、何も先生よりもそれほど立ち勝っておられたわけでもないのではないですか」。

子貢は言った。「君子はただ一言で知者とも見られ、不知者とも見られるのであるから、言葉は慎まなければならない。大先生が及びもつかない偉いお方だったことは、まさに天にはしごをかけてものぼることができないようなものだ。もし大先生が天下の政治をなさったら、昔の言葉にあるように『民の生活を確立しようとすれば、すぐに確立し、民を教え導こうとすれば、皆すぐに従い、民を安んじようとすれば、たちまち遠方の人まで慕い来て、民を激励すれば、たちどころにお互いにやわらぎ楽しむ。その人が生きておれば、この人を親しみ尊び、その死する時は、大変に悲しむ』とある。この言葉はそのまま大先生にあてはまるものだ。どうして私ごときが及ぶことができようか」。


【読み下し文】

陳子禽(ちんしきん)(※)、子貢(しこう)に謂(い)いて曰(いわ)く、子(し)は恭(きょう)を為(な)す(※)なり。仲尼(ちゅうじ)は豈子(あにし)よりも賢(けん)ならんや。子貢(しこう)曰(いわ)く、君子(くんし)は一言(いちげん)、以(もっ)て知(ち)と為(な)し、一言(いちげん)、以(もっ)て不知(ふち)と為(な)す。言(げん)は慎(つつし)まざるべからざるなり。夫子(ふうし)の及(およ)ぶべからざるや、猶(な)お天(てん)の階(かい)して升(のぼ)るべからざるがごときなり。夫子(ふうし)にして邦家(ほうか)(※)を得(え)たらんには、所謂(いわゆる)、之(これ)を立(た)つれば斯(ここ)(※)に立(た)ち、之(これ)を道(みちび)けば斯(ここ)に行(ゆ)き、之(これ)を綏(やす)んずれば斯(ここ)に来(き)たり、之(これ)を動(うご)(※)かせば斯(ここ)に和(やわ)らぐ。其(そ)の生(い)くるや栄(さか)(※)え、其(そ)の死(し)するや哀(かな)しまる。之(これ)を如何(いかん)ぞ其(そ)れ及(およ)ぶべけんや。


(※)陳子禽……姓は陳。名は元。孔子あるいは子貢の弟子。10話参照。

(※)恭を為す……謙遜すること。

(※)邦家……ここでは天下の政治を行うこと。

(※)斯……その場所で。その点においては。

(※)動……激励する。

(※)栄……親しみ尊ぶ。


【原文】

陳子禽謂子貢曰、子爲恭也、仲尼豈賢於子乎、子貢曰、君子一言以爲知、一言以爲不知、言不可不愼也、夫子之不可及也、猶天之不可階而升也、夫子之得邦家者、所謂立之斯立、衜之斯行、綏之斯來、動之斯和、其生也榮、其死也哀、如之何其可及也



*495話が長文のため、今回は2話のみの掲載となります。



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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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