第183回
465話
2017.04.18更新
【 この連載は… 】 毎日数分で「東洋最大の教養書」を読破しよう! 『超訳 孫子の兵法』の野中根太郎氏による、新訳論語完全版。読みやすく現代人の実生活に根付いた超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
465 みんなと世の中をよくしていきたい
【現代語訳】
隠者である長沮(ちょうそ)と桀溺(けつでき)の二人が並んで畑を耕していた。孔子先生がそこを通りかかったとき、子路に渡し場がどこにあるかをたずねるよう申し付けた。
長沮は、「あの馬車で手綱を持っているのは誰だ」と聞いた。
子路は、「孔丘です」と答えた。
長沮は、「魯の孔丘か」と言った。
子路は、「そうです」と返事した。
長沮は、「孔子ならあちこち出かけているのだから、渡し場のあるところぐらい知っているだろう」と言って、教えてくれなかった。
そこで子路はもう一人の桀溺にたずねた。
桀溺は、「ところでお前は誰だ」と聞いた。
子路は、「仲由です」と答えた。
桀溺は、「あの孔丘の弟子か」と言った。
子路は、「そうです」と答えた。
すると桀溺は、言った。「河の水が滔々(とうとう)と流れていくのを返せないように、天下も同じく返せない。なのにお前の先生は、一体誰とともにこれを変えようというのだ。お前も、『あの人もいけない、この人もいけない』と名君を探してまわるあの孔丘に従っていくよりは、我々のように、世間を避けて畑を耕す者の仲間入りをするほうがいいぞ」。このように桀溺も教えてくれず、もくもくと蒔(ま) いた種の土かけを続けた。子路は戻って以上のやりとりを先生に伝えた。
先生はぶぜんとして言われた。「いかに世を避けるといっても、鳥や獣と一緒になって生きていけようか。人として生まれた以上、世の中の人とともに生きていくのである。そうでなくて誰と生きていくというのか。もし、天下に道があれば、私ががんばって世の中を変える必要もない。今、天下に道がないからこそ、東奔西走(とうほんせいそう)しているのではないか」。
【読み下し文】
長沮(ちょうそ)と桀溺(けつでき)(※)と耦(ぐう)して耕(たがや)す。孔子(こうし)之(これ)を過(よぎ)り、子路(しろ)をして津(しん)(※)を問(と)わしむ。長沮(ちょうそ)曰(いわ)く、夫(か)の輿(たづな)を執(と)る者(もの)は誰(たれ)と為(な)す。子路(しろ)曰(いわ)く、孔丘(こうきゅう)と為(な)す。曰(いわ)く、是(こ)れ魯(ろ)の孔丘(こうきゅう)か。曰(いわ)く、是(こ)れなり。曰(いわ)く、是(これ)ならば津(しん)を知(し)れり。桀溺(けつでき)に問(と)う。桀溺(けつでき)曰(いわ)く、子(し)は誰(たれ)と為(な)す。曰(いわ)く、仲由(ちゅうゆう)と為(な)す。曰(いわ)く、是(こ)れ魯(ろ)の孔丘(こうきゅう)の徒(と)か。対(こた)えて曰(いわ)く、然(しか)り。曰(いわ)く、滔滔(とうとう)たる者(もの)は、天下(てんか)皆(みな)是(これ)なり。而(しこう)して誰(たれ)か以(もっ)て之(これ)に易(たが)(※)わん。且(か)つ而(なんじ)は其(そ)の人(ひと)を辟(さ)くるの士(し)に従(したが)わん与(よ)りは、豈世(あによ)を辟(さ)くるのに士(し)に従(したが)うに若(し)かんや、と。耰(ゆう)(※)して輟(や)(※)めず。子路(しろ)行(さ)りて以(もっ)て告(つ)ぐ。夫子(ふうし)憮然(ぶぜん)として曰(いわ)く、鳥(とり)と獣(けもの)とは与(とも)に群(ぐん)を同(おな)じくすべからず。吾(われ)は斯(こ)の人(ひと)の徒(と)と与(とも)にするに非(あら)ずして、誰(たれ)と与(とも)にせん。天下(てんか)に道(みち)有(あ)らば、丘(きゅう)は与(とも)に易(か)えざるなり。
(※)長沮と桀溺……隠者とされるが、詳しいことはわかっていない。
(※)津……川の渡し場。
(※)易……世の中を変える。
(※)耰……まいた種に土をかぶせること。
(※)輟……「止」と同じで、止めるを意味する。
【原文】
長沮桀溺耦而耕、孔子過之、使子路問津焉、長沮曰、夫執輿者爲誰、子路曰、爲孔丘、曰、是魯孔丘與、曰是也、曰是知津矣、問於桀溺、桀溺曰、子爲誰、曰爲仲由、曰是魯孔丘之徒與、對曰、然、曰滔滔者天下皆是也、而誰以易之、且而與其從辟人之士也、豈若從辟世之士哉、耰而不輟、子路行以吿、夫子憮然曰、鳥獸不可與同群、吾非斯人之徒與而誰與、天下有衜、丘不與易也、
*465話が長文のため、今回は1話のみの掲載となります。
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