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孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第31回

88話~90話

2018.02.27更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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はじめに

第1章

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88 敵を分断させる

【現代語訳】

昔の戦争がうまいといわれた者は、敵の部隊が互いに連絡できないようにさせ(前線と後方部隊の連絡を遮断し)、大部隊と小部隊が互いに助け合えないようにさせ、将兵と一般の兵士たちに一体感をもたないようにさせ、上下の指揮系統を混乱させ、兵士たちが離散して集まらず、集まってもまとまらないようにさせた。
そして、味方にとって、有利であれば行動を起こし、不利であれば戦いへの動きを止め、ときを待つようにしたのである。

【読み下し文】

所謂(いわゆる)古(いにしえ)の善(よ)く兵(へい)を用(もち)うる者(もの)は、能(よ)く敵人(てきじん)をして前後(ぜんご)相(あい)及(およ)ばず、衆寡(しゅうか)相(あい)恃(たの)まず、貴賤(きせん)相(あい)救(すく)わず、上下(じょうげ)相(あい)収(おさ)めず(※)、卒(そつ)離(はな)れて集(あつ)まらず、兵(へい)合(がっ)して斉(ととの)わざらしむ。利(り)に合(あ)えば而(すなわ)ち動(うご)き、利(り)に合(あ)わざれば而(すなわ)ち止(と)どまる。

(※)上下相収めず(上下不相收)……ここでの「上下」とは、将兵すなわち「軍上層部と一般の兵士が収めず」、つまり、「まとまらない」「一体感をもてない」ことをいう。なお、この原文の中の「収」を「扶」とする説もある。そうすると「扶たすけず」と読み、「上下の者が助け合わないようにさせ」と訳することになる。

【原文】

所謂古之善用兵者、能使敵人歬後不相及、衆寡不相恃、貴賤不相救、上下不相收、卒離而不集、兵合而不齊、合於利而動、不合於利而止、

89 大軍かつ整然とした敵の迎撃方法

【現代語訳】

お尋ねしたい。敵が大軍でしかも整然として攻めてこようとするとき、どのようにこれを迎え撃てばよいだろうか。
答えていいます。まず敵の最も大切にしているところを奪えば、こちらの思い通りになるでしょう(整えた軍隊も乱れることになる)。実戦での用兵の肝(きも)は迅速であることです。そこでさらに敵の不備に乗じ、思いもよらない方法により、警戒していないところを攻撃するのです。

【読み下し文】

敢(あ)えて問(と)う(※)、敵衆(てきしゅう)にして整(ととの)いて将(まさ)に来(き)たらんとす。これを待(ま)つこと若何(いかん)。曰(いわ)く、先(ま)ず其(そ)の愛(あい)する所(ところ)を奪(うば)わば、則(すなわ)ち聴(き)(※)かん。兵(へい)の情(じょう)(※)は速(すみ)やかなるを主(しゅ)とし、人(ひと)に及(およ)ばざるに乗(じょう)じ、不虞(ふぐ)の道(みち)に由(よ)り、其(そ)の戒(いまし)めざる所(ところ)を攻(せ)むるなり。

  • (※)敢えて問う……孫子に対して質問しているのは、呉王の闔廬(こうりょ)だと思われる。
  • (※)聴……聞く。受け入れる。ここでは、こちらの思い通りに敵を動かし乱れさせること。
  • (※)兵の情……戦争の実情。実戦での用兵法やその肝。なお、この「兵の情」を「兵士の心情」と解する説もある。

【原文】

敢問、敵衆整而將來、待之若何、曰、先奪其所愛則聽矣、兵之情主速、乘人之不及、由不虞之衜、攻其所不戒也、

90 決死の覚悟で戦うようになるとき

【現代語訳】

およそ敵国に侵入して攻撃する場合、敵地深く侵入すればするほど、味方の心は戦いに専念して結束し、敵は勝てないことになる。敵国の豊かな土地から食糧を奪えば味方の食糧も足りる。兵士は休養させて疲労させず、士気を高めて戦力を充実させて軍を動かすようにし、敵がはかり知れない策謀を行いながら、味方の兵を戦うしかないところに投入することで、死んでも逃げなくなり、決死の覚悟で全力を尽くすのである。

【読み下し文】

凡(およ)そ客(かく)(※) 為(た)るの道(みち)、深(ふか)く入(い)れば則(すなわ)ち専(もっぱ)らにして、主人(しゅじん)(※) 克(か)たず。饒野(じょうや)に掠(かす)むれば、三軍(さんぐん)食(しょく)足(た)る。謹(つつし)み養(やしな)いて労(ろう)すること勿(な)く、気(き)を併(あわ)せ力(ちから)を積(つ)み、兵(へい)を運(めぐ)らして計謀(けいぼう)し、測(はか)るべからざるを為(な)し、これを往(ゆ)く所(ところ)無(な)きに投(とう)ずれば、死(し)すとも且(か)つ北(に)げず、死(し)焉(いずく)んぞ得(え)ざらん、士人(しじん)力(ちから)を尽(つ)くす。

  • (※)客……他国への侵入軍。
  • (※)主人……自国内で侵入してくる軍を迎撃する軍。

【原文】

凢爲客之衜、深入則專、主人不克、掠於饒野、三軍足⻝、謹羪而勿勞、併氣積力、運兵計謀、爲不可測、投之無所徃、死且不北、死焉不得、士人盡力、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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