第5回
映画で見た「夢のツール」みたいなものができたら
2018.06.14更新
【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
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「EYE VDJ」ができたから可能になったこと
僕の頭の中の「こんなものがあったらいいな」という妄想から始まったこのプロジェクトが実現し、発表にこぎつけることができたのは、2016年6月21日世界ALSデイの時でした。
僕らはこの「眼の動きで音楽と映像を操るプレイ」を「EYE VDJ」と名付け、音楽フェスやイベントなどの場で披露させていただいてきました。世界中でまだ僕のほかには誰もやっていないチャレンジだろう、と自負しています。
開発過程では、眼の動きの繊細さ、人体の構造のデリケートさというものを痛感したこともありました。ライブ本番前には、僕も眼の動かし方を一生懸命トレーニングして何度もリハーサルを重ねました。しかし、本番を迎えて僕が普段よりも緊張していると、無意識の瞬きが多くなります。自分では落ち着いているつもりでも、身体は緊張し、眼の状態もいつもと違う興奮状態になっているんです。そうすると、視線の動きの読み取りがリハーサルのときのようにはいかなくなってしまうのです。
最初の音が出るまでに、30分もかかってしまったことがありました。
それが、お客様の前で初めてプレイした、第一音目、EYE VDJとしての第一歩目の時のことです。
チャレンジにはいろいろなアクシデントが付き物です。今となっては、大切な想い出話のひとつですね。
そうした点も、開発チームの皆さんと二人三脚で研究を重ねていきました。
日ごろ無意識にやっている周期性、反射性の瞬きと、意識的にやる随意性瞬きとをセンサーが区別して検知できるようにしたり、最大8方向(左右上下斜め)まで、眼の動きを識別させることができるようにまでなりました。日々改良を繰り返すことで、精度を上げていったのです。
プレイするのは僕一人ですが、博報堂、山本製作所、invisible Designs lab.、本当に素晴らしいプロジェクトチームの仲間と挑んだことで、実現したのです。
僕がEYE DVJをやるために作ったこのシステムを応用させることで、視線入力でさまざまな電子機器を操作するアプリケーションを開発することもできました。それが「JINS MEME BRIDGE」というアプリケーションです。Android用アプリなので、Androidのスマートフォンを持っていれば、誰でも使えます。
前述したように、ALSの患者さんたちは視線入力装置を利用しています。しかし、これまでの装置は基本的にパソコンを使って操作する大がかりなものばかりでした。でも、「JINS MEME」なら、メガネとスマートフォンさえあればいい。大きな装置は必要ないということは、ALS患者さんでもただベッドの上に横たわっているだけでなく、移動しながらいろいろなことができるようになります。
どんなことができるかというと、たとえば、目の動きや、瞬きでスマホカメラで写真撮影ができます。
音楽ストリーミング配信サービスSpotifyに繋げて、好きな音楽プレイリストを再生したり、停止したりすることもできます。
スマートリモコンとの連携によって、部屋のエアコンやテレビ、照明をコントロールすることも可能です。自分の意思でこうした環境操作ができるだけでも、日常生活の快適さはまるっきり変わってくるはずです。
© WITH ALS
映画で見た「夢のツール」みたいなものができたら
僕の創造力の根っこにあるのは、「映画に登場するような夢のツールを実現させられたら楽しいな」という気持ちです。小さい頃から映画が大好きで、映画からたくさんの刺激を受けてきました。
僕が生まれたのはアメリカ、カリフォルニア州サンタモニカです。生粋の日本人ですが、両親が仕事の関係でアメリカ暮らしをしているときに向こうで誕生しました。
小学校に入る前に日本に帰国しましたが、僕の中の「カッコいい」もの、「面白いもの」の原点というのは、ほとんどアメリカンカルチャーにあるといってもいいかもしれません。日本で幼少期を過ごしていたら、きっとテレビアニメだったり、戦隊ものだったりに影響を受けたのでしょうが、僕にとってはそれがディズニー作品やアメリカン・コミックスを原作とするハリウッド制作の子ども向け映画だったわけです。
僕は、ひたすら愛らしいキャラよりも、ひとクセあるようなキャラが好きでした。
当時、僕がドはまりしたキャラクターのひとつが、『ミュータント・ニンジャ・タートルズ』に出てくるカメたちでした。本来は動きの遅い動物であるカメたちが、人間というか忍者として華麗な技を繰り広げる。考えてみれば、はちゃめちゃな設定ですが、好きでしたね。すごくハマっていました。
そして、映画を観た後は、自分のお気に入りのキャラがその後どういう活躍をするかという続きの物語を自分で勝手に作るのが好きでした。
ニンジャ・タートルにしても、家のリビングのソファの下とか照明スタンドの下を彼らの秘密基地に見立て、タートルの人形を手にして、自分のオリジナルストーリーを展開させてひとり遊びするようなことをよくやっていました。
もうひとつ忘れられないのが、映画を観ると、そこに出てくるツールやギアにやたらと目が向いていたこと。たとえば、『ゴーストバスターズ』のメンバーたちがゴースト退治に行くときに乗っていた車とか、背負っていたタンク。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のスケボー型ホバーボード。現実にはありえない面白い道具類に惹きつけられ、「これ欲しいなあ」とか、「こういうものに乗りたい」とか夢見る子だったのです。
昔は夢のツールだったものが、実際に製品化して僕たちの生活の中で使われているというものが、たくさんありますよね。それによって、僕らの生活はどんどん便利に、快適になってきました。
テクノロジーが大好きな僕の根底には、映画に出てきたようなものが実現する社会へのあくなき憧れ、テクノロジーが暮らしを明るく変えてくれるという期待感が強くあるのです。
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