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第10回

好きなことだけやって生きていけるか?

2019.08.01更新

読了時間

齋藤孝先生の最新刊は「頭のよさ」の本! 6月5日発売!「頭がいい」とは脳の「状態」なのです。頭のはたらきがいいときは、目の前の問題が簡単に解決できるし、未来を楽しく創り出していくことができる。すっきりと気分もいい。そんな状態のときをどんどん増やしていくにはどうしたらいいか?本書で詳しく解説します。
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 スポーツとか音楽とか、好きなことに熱中しているといっても、それでプロになろうとかまで思っていない。ただ好きでやっている、という人も多いと思います。
 のびのび好きなことをやっていたい、それだけやっていられたら楽しい。しかし、そうはいかないのが現実です。
 だれしもみんな、その狭間で悩んだり苦しんだりしているんです。

 がんばって、プロのスポーツ選手になれたとしても、スポーツの世界は活躍できる期間が限られています。
 普通の職業は30年、40年続けられます。しかしスポーツ選手の場合は、全盛期、ピークが35歳ぐらいまでということが多い。
 その後の人生をどうするのか、という問題も早くから視野に入れておかないといけない。
 好きなこと、情熱を注ぐことがあるのは、とても大切なことです。
 しかし、好きなことだけやって生きていける人は、基本的にはいない。ぼくはそう思っています。

 一生、ゲームをやって、楽しく暮らしていたいという人もいるかもしれません。
 こんなことを言っている人がいました。
「親が不動産を残してくれるって言っているから、自分は月10万ぐらいだけ稼げればいい。あとはずっとゲームやって生きていきたい」
 親のもっている家で暮らしていて、光熱費も親が払ってくれている、食べるものも親が用意してくれている。このまま親が80歳、90歳まで生きてくれれば、自分もずっとゲームをやって暮らせる、そういう人生がいいんだ、それが幸せだと言う。
 ところが、あるとき、好きな人ができたんです。結婚したいと思うようになった。
 そうしたら、まったく違う気持ちが芽生えてきた。親元から独立して、その人とひとつの家庭を営みたいという気持ちになった。だから、「ちゃんとしたかたちで仕事をしなければいけない」と思うようになった。
 人間の気持ちというのは、状況が変われば、そんなふうに変わるものなんです。

 人間だから、気持ちは変わっていく。
 そのときに、「ああ、あのときに勉強しておけばよかった」「こうしておけばよかった」と後悔することにならないようにしておくことが必要なんです。
 そのときにできるだけ困らないように、なんとかできるように、自分がいまできること、やれることはちゃんとやっておかなければいけない。
 自分のどう変わっていくかわからない今後に対して、できるだけ選択肢を減らしてしまわないようにする。
 それが、自分の可能性の芽を摘まないようにする、ということ。
 それが、そのときどきの現実に立ち向かう力、現実を変える力になるんです。


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著者

齋藤 孝

1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(草思社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)などベストセラーも多数。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。

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