第1回
まえがき
2016.07.19更新
【 この連載は… 】 毎日数分で「東洋最大の教養書」を読破しよう! 『超訳 孫子の兵法』の野中根太郎氏による、新訳論語完全版。読みやすく現代人の実生活に根付いた超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
まえがき
私は小さい時から本が好きでした。 地方の田舎で育ち、それこそ分校のような小学校で学びましたから、図書館といってもそんなに本は多くありませんでした。近所には山や川があり、ちょっと遠出すれば海にも行け、まさに自然の中で育ってきました。ですが、時には本の魅力にはまり、一人で読みふけることもあったのです。東京の大学に通い、ますますいろいろな読書に手を出し、アルバイト先の新聞社で、政治問題を手伝うようになりました。そして、社会に出て、中国古典と言われるものや、日本の古典や歴史にも興味が出てきました。
論語もその一つです。読み始めて三十年くらいでしょうか、始めは、「つまんないなあ」と思ったものです。しかし、十年くらいたったころでしょうか、論語を読むたびに気づくことが多くなりました。小学校以来、これまで読んできたたくさんの本で書かれていたことの多くには、論語が前提となって書かれていたことに気がついたのです。論語を読み返すたびにそれがわかり、とてもおもしろくなりました。と同時に、今まで何も知らなかったことを反省もしたものです。
三十代のころから日本の歴史や偉人の本が大好きになり、ちょくちょく調べ始めました。ここでも、論語の重要さがわかりました。何よりも『武士道』の中で、著者・新渡戸稲造も述べているように、現代日本人の精神基盤として大きな存在となっている「武士道精神」のかなりの部分に論語の内容が入っていたことに驚きました。これは新渡戸稲造も述べているように、多くは論語の内容が、日本人が昔から大切にしてきた教えに、うまく合致するものだったからではないでしょうか。
私は世界中でビジネスをし、いろいろな国の人とつき合ってきましたが、日本人というものは、世界ではかなり珍しい人たちであるのがわかりました。とくに特徴的なのは、信義、誠実、勤勉、礼儀正しさ、時間に正確なことです。これも論語の教えとかなり一致します。儒教の国と言われる中国や韓国でも(とくに中国では論語の母国で最近見直しも主張されていますが)、その国民性は、日本とまったく異なり、論語の教えるものとはかなり違っているように思われました。本当の意味で論語の内容が浸透している社会は、日本しかないということでしょう。
日本のビジネスの礎を築いた渋沢栄一の主張を見ればわかるように、日本ビジネスの強さの理由は論語にあるのではないかと思います。論語の教えが浸透した社会、組織ほど強いものがあるし、個人の人生でもかなり役立つことが多いと言うことができます。今回、そんな論語を全文と全現代語訳で紹介させてもらいたいと思ったのが、本連載をスタートする理由です。
本連載では漢字のみの原文に、オリジナルの読み下し文もつけました。読み下し文だけでもいいのですが、先ほど述べましたように、論語の原文から、使われている日本人の名前や学校の名称、会社の名称が多いので(また著名人の書などにも多い)、参考になればおもしろいと考えて載せることにしました。
現代語訳は、私の二十年以上の論語読みと現代感覚から、原文のかおりを残しながら孔子が伝えたいことをまとめ、現代日本人の理解にマッチするところをめざしました。
なお、論語の一つひとつに具体的な解説はつけていません。それは読者の皆様がそれぞれに考えてくださることで、より楽しく、理解も深まるものになるのではないかと思ったためです。前にも述べましたように、たとえば吉田松陰や西郷隆盛、福沢諭吉の書いたものも理解が一層深まり、また、徳川家康、加藤清正などの歴史上の偉人たちの行動も一味違った見方ができると思います。これは西欧の本でも同じことが言えます。たとえば、アメリカの古典と言われるソローの『森の生活』にも論語が出てきます。
論語は何十年と読み続けることで、自分のものが出てくると言われる不思議な書です。どんなきっかけでもよいから読み始められる方はとてもラッキーです。今回の私のお届けする論語をきっかけとして、ぜひあなた自身の論語をこれからつくってもらえることを願っています。
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