第2回
ざっくり紹介 旧約聖書のナカミ(上)
2018.02.20更新
戦隊ヒーローのレッドはリーダーで、パンをくわえた女子学生は曲がり角で誰かとぶつかる……。そんなお約束は西洋絵画にも。単行本出版を記念して、書籍から厳選コンテンツを特別公開!
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西洋絵画の歴史のなかでも重要なキリスト教絵画
キリスト教はイエスの死後、イエスの弟子たちによって古代ローマに伝わり、中世にヨーロッパ全土に広まりました。以来、キリスト教絵画はヨーロッパで1000年以上にわたり制作されてきました。布教のために、文字が読めない人に聖書の教えをわかりやすく絵解きする必要があったのです。カトリック教会の内部でプロテスタントが分離し始めた16世紀の宗教改革後は、キリスト教や教会の権威を示すためにも描かれ、信仰心を絵で表し教会へ寄進する人もいました。
キリスト教の聖典のひとつである旧約聖書は、ユダヤ教やイスラム教の聖典でもあります。のちにキリスト教徒が作った新約聖書に対し、ユダヤ教の聖典として新約聖書以前にまとめられたものを旧約聖書とよびます。
人間がもつ疑問に対する答えが示されたバイブル
キリスト教もユダヤ教もイスラム教も、旧約聖書に登場する同じひとりの神を信仰しています。
旧約聖書は、ユダヤ教の聖典として紀元前4世紀から紀元前1世紀にかけて編纂されました。古代、ユダヤ民族は周辺民族から侵攻や弾圧を受けてきました。受難の歴史のなかで、彼らの支えとなったのがユダヤ教です。多神教を信仰する周辺民族に対し、ユダヤ民族は、この世界の創造主と考えるひとりの神を信じていました。
旧約聖書は神との契約やユダヤ民族の成立などが記されたモーセ五書、ユダヤ民族の歴史書、文学や預言者たちの言葉など全39巻で構成されています。神と人間とのさまざまな物語を通して、人間が抱く問いや悩みに答える役割を果たしています
この世界の始まり天地創造の物語
旧約聖書・モーセ五書の中の『創世記』によれば、ひとりの神が6日間でこの世界のすべてを創造し、7日目に休んで安息日としました。このためキリスト教、ユダヤ教では、安息日(土曜)は何もしてはならない日と定められ、これが現代の日曜を休みとする習慣のルーツとなりました。
神は6日目に自分の姿に似せたアダムをつくり、アダムのあばら骨からイヴをつくります。2人はエデンの園で暮らしますが、罪を犯して楽園を追放され、イヴには子を産む苦しみ、アダムには生涯食べ物を得るための苦しみなどが罰として与えられます。人間が最初に犯したこの「原罪」の物語は、人間はなぜ死ぬのか、なぜ働かなければならないのかといった疑問への説明になっています。
※1ヒエロニムス・ボス『世界の創造』1500~05年/プラド美術館(マドリッド)
※2ウィリアム・ブレイク『日の老いたる者(天地創造)』1794年/大英博物館(ロンドン)
※3ミケランジェロ・ブオナローティ『アダムの創造』(『天地創造』より)1508~12年/システィーナ礼拝堂(ヴァチカン)
ユダヤ人の選民意識を表したカインとアベル
エデンの園を追われたアダムとイヴの息子が、カインとアベルです。
ある日、カインは神に自分のつくった農作物を捧げますが神はこれを拒否し、アベルが捧げた子羊だけを受け取ります。カインは嫉妬に狂ってアベルを殺し、人類初の殺人が起こります。この物語は遊牧民のユダヤ民族と農耕民の周辺民族の対立の比喩となっています。アベルが優位に描かれているのは、自分たちは神様から選ばれた存在だという選民意識の表れです。
その後、神は地上に増えた人間を一掃するために大洪水を起こし、天に届く塔を建設しようとする人間を戒め、堕落した街ソドムとゴモラを滅ぼします。試練のあと、神から土地を与えられたアブラハムがユダヤ民族の祖となります。
※4ヤコポ・ティントレット『カインとアベル』1550~53年/アカデミア美術館(ヴェネツィア)
※5パオロ・ウッチェロ『大洪水』1445年頃/サンタ・マリア・ノヴェッラ教会キオストロ・ヴェルデ(フィレンツェ)
※6ピーテル・ブリューゲル(父)『バベルの塔』1563年/美術史美術館(ウィーン)
※7アルブレヒト・デューラー『ソドムから逃げるロトと娘たち』1496 ~99年/ナショナル・ギャラリー(ワシントン)
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