第7回
旧約聖書のモチーフ 大天使ミカエル/大天使ガブリエル/ 大天使ラファエル ほか
2018.03.27更新
戦隊ヒーローのレッドはリーダーで、パンをくわえた女子学生は曲がり角で誰かとぶつかる……。そんなお約束は西洋絵画にも。単行本出版を記念して、書籍から厳選コンテンツを特別公開!
「目次」はこちら
旧約聖書の中にしばしば登場する天使は本来、霊的な存在と考えられていて性別もありません。このため、幼い子どもや少女だったり、ひげをはやした男性だったりと、さまざまな姿で描かれてきました。
天使の起源は、古代オリエントや地中海地方の神話などにあるとされ、5世紀頃から階級が体系化されていきました。最も階級が高いのは、神への愛の炎で身体が燃えているセラフィム(熾天使:してんし)です。旧約・新約2冊の聖書を通じて活躍するのは、天使の中では下のほうの階級である大天使のミカエルやガブリエルなど。多くは神の言葉を伝えるといった、天界と地上界をつなぐ役割を担って登場します。
ミカエルやガブリエルのような人気のある天使は大きな翼をもった青年の姿で描かれることが多く、ルネサンス期には光輪、いわゆる天使の輪も定番のシンボルとなりました。
旧約聖書の『ダニエル書』に登場するミカエルは、キリスト教により「戦う教会」の守護者とされた天使です。
新約聖書の『ヨハネの黙示録』ではミカエルと悪魔の戦いが記され、宗教改革以降はキリスト教と反キリスト教の闘争のエピソードとして語られてきました。このため「戦う天使」として楯や槍、剣を持ち、甲冑を身に着けた姿で描かれることが多いのが特徴です。また、ミカエルは「審判の天使」として死者の魂を計量している姿でも描かれます。ここにはギリシャ神話において旅人の守護神で、死者を冥界に導く役割も担っていたヘルメスの影響があります。
神の伝言係のガブリエルは、旧約聖書のほかにイスラム教の聖典『コーラン』にも登場します。コーランの中でも神のメッセンジャーの役割を担い、天使ジブリールとしてムハンマドに神の啓示を授けます。
キリスト教においてガブリエルは、洗礼者ヨハネと聖母の誕生を預言します。イエスの誕生や復活を告げ、「最後の審判」でラッパを吹いて死者をよみがえらせる天使でもありますが、最もよく描かれるのは受胎告知の場面です。処女マリアが神によって懐妊するこの場面ではよく、聖母マリアの処女性と純潔を表すユリを手にした姿で描かれています。
ウリエルはキリスト教の偽典※1の『エノク書』の中で、ノアに洪水が迫っていることを知らせる天使として登場します。新約聖書外典の『ペトロの黙示録』では、地獄の罪人を苦しめる天使ともされています。正典には登場しないためミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエルの四大天使の中で最も影が薄く、ウリエルをはずして三大天使とよぶこともあります。
しかし神学者にとっては格好の研究テーマとなり、宗派によってさまざまなイメージが生まれました。学説の中には、ヤコブと取っ組み合いをしてイスラエルの名を授けた天使がウリエルだとする見かたもあります。
※1 偽典:聖書の正典・外典に含まれない文書
若者の庇護者、旅人の守護聖人として、トビアスとのエピソードで描かれることが多いラファエル。トビアスと一緒のときには旅人の服を着ていたり、小箱を持っていたりします。
トビアスに奇跡の魚を授けた天使として人気がありますが、名前が出てくるのは旧約聖書外典の『トビト記』のみ。新約聖書には姿を見せません。偽典の『エノク書』では、冥界の旅の案内人として登場します。
ラファエルという名前は「神が癒したもの」という意味があります。ユダヤ教では「癒し」を司る天使とされ、ユダヤの神話の中では天使と争ったヤコブの傷を治したりしています。
この本を購入する
感想を書く