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マンガでわかる「西洋絵画」のモチーフ

第8回

旧約聖書のモチーフ 智天使(ケルビム)/魔女/悪魔

2018.04.03更新

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戦隊ヒーローのレッドはリーダーで、パンをくわえた女子学生は曲がり角で誰かとぶつかる……。そんなお約束は西洋絵画にも。単行本出版を記念して、書籍から厳選コンテンツを特別公開!
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人物 エデンの園の護衛役 智天使(ケルビム)

よく描かれるもの 1~3対の翼

アンドレア・マンテーニャ 『ケルビムのいる聖母子』1485年/ブレラ美術館(ミラノ) マンテーニャは初期ルネサンスの画家で、北イタリアの画家たちやデューラーにも影響を与えました。聖母子のまわりに、ケルビムが幼児の頭部に翼が生えた姿で描かれています。

天使の階級のうち、最上級に位置する熾天使(してんし:セラフィム)の次に位が高いのが智天使ケルビムです。『創世記』の中でアダムとイヴを追放した神は、ケルビムに炎の剣を与えてエデンの園の門番としました。
旧約聖書に収められた預言者の書『エゼキエル書』の中では、4つの顔と4つの翼をもつ天使として登場します。想像をふくらませた画家の多くは、1~3対の翼をもった頭だけが浮かんだ姿でケルビムを表現しました。
6つの翼をもつセラフィムと混同されて描かれることもあり、ときには神のまわりを飛び回るように表現されることが多いのも特徴です。

ラファエッロ・サンツィオ 『聖母の戴冠』部分 1503年/ヴァチカン美術館(ヴァチカン) 聖母マリアがキリストから冠を授かるシーン。両側には楽器を演奏する天使がいます。2人の頭上で飛び回る頭部と翼だけの天使がケルビムです。

人物 悪魔に魂を売り特殊な能力を得る 魔女

よく描かれるもの 夜行性の鳥/ヒキガエル/蛇/ほうき/悪魔/骸骨/鍋、壺

アルブレヒト・デューラー『4人の魔女』1497年頃/ドイツ民族博物館(ニュルンベルク) 古代の女神3人の伝統的な「三美神」のポーズをもとに描いたパロディ。足元にドクロが転がり、奥にかまどの火が燃え、その火から悪魔が顔をのぞかせています。

旧約聖書の『出エジプト記』に、「女呪術師」として登場する魔女。中世後期以降、魔女は「悪魔に誘惑されて契約を結んだ者」として、ヨーロッパに広まりました。15~17世紀には魔女狩りが巻き起こり、この時期に魔女狩り関連の絵が多く描かれました。
背景にはキリスト教における女性嫌悪(ミソジニー)や、それに影響された悪魔学の成立があり、女性性を否定した姿や年老いたみにくい魔女像が目立ちます。一方で、デューラーの名作『4人の魔女』のような、豊満な肉体と美しく結い上げられた髪で女性性のプラスの側面を盛り込んだ魔女像も描かれています。

人物 神を裏切った元天使 悪魔

よく描かれるもの 角/尻尾/翼、羽/槍/鍬、ピッチフォーク

ランブール兄弟『ルキフェルと堕天使たちの墜落』(『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』より) 1413~16年頃/コンデ美術館(シャンティイ) 裕福な権力者ベリー公の注文により制作された祈祷書の中の1ページ。天から落ちる天使たちが描かれています。中央の炎の中に、真っ逆さまに身を落としているのがルキフェル(ルシファー)です。

悪魔は神に反逆した元天使です。旧約聖書の『イザヤ書』の中で、神を裏切り、天から落ちた堕天使として語られています。この世界の諸悪の根源は天使の裏切りにあり、地上に悪を作り出したのは神ではないと説明をしているのです。
堕天使の長のルシファーは、元天使でありながら神の敵の親玉、魔王サタンとなり、堕天使たちはサタンの下僕となります。旧約聖書の中で示されたこうしたイメージは新約聖書に受け継がれ、広く世の中に浸透しました。やがて異教の神々も悪魔とみなされるようになります。
さらに画家たちは、古代神話や東方の伝説からもイメージを借りてきて、実にさまざまな姿かたちをした奇怪な悪魔を作り上げています。
回心、悪魔祓い、誘惑の克服、「最後の審判」、地獄などに関連して描かれることが多いモチーフです。

ミヒャエル・パッハー『聖ヴォルフガングと悪魔』1480年頃/アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン) 神から教会を建てるように命じられた聖ヴォルフガングに、悪魔が手を貸すと誘惑している場面です。悪魔は、お尻にも顔がある奇怪な姿で描かれています。
フランシスコ・デ・ゴヤ『魔女たちのサバト』1798年頃/ラサロ・ガルディアーノ美術館(マドリッド) 悪魔を崇拝する魔女たちの集会(サバト)を描いたものです。中央に牡山羊が悪魔の化身として描かれ、魔女たちが生贄(いけにえ)の赤子を差し出しています。
ジョヴァンニ・ダ・モデナ 『地獄』部分1404年頃/サン・ペトロニオ教会(ボローニャ) 最後の審判によって罪人が落とされた、地獄を描いた作品です。罪人をサタンが飲み込み、もうひとつの顔から吐き出して苦しみを与え続けています。

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著者

監修:池上英洋 イラスト:まつおかたかこ

監修:池上 英洋(いけがみ・ひでひろ) 美術史家。東京造形大学教授。東京藝術大学修士課程修了後、イタリア・ボローニャ大学などでの在外研究、恵泉女学園大学準教授、國學院大學準教授を経て現職。著書に、『ダ・ヴィンチの遺言』(河出書房新社)、『西洋美術史入門』(筑摩書房)、『ルネサンス 歴史と芸術の物語』(光文社)、『「失われた名画」の展覧会』(大和書房)、編著に『西洋美術史入門 絵画の見かた』(新星出版社あ9など。 イラスト:まつおかたかこ  イラストレーター。雑誌、広告、書籍をはじめ展覧会などでも幅広く活動中。活躍中。

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