第10回
トリスタンとイゾルデ
2018.06.26更新
「フィガロの結婚」「トゥーランドット」「椿姫」「トリスタンとイゾルデ」などなど……。オペラには、女と男の愛、騙し騙され合いの駆け引き、生死を賭けた戦い…などなど、人間のドラマが色濃く描かれています。本連載では『マンガでわかる「オペラ」の見かた』単行本出版を記念して、書籍から厳選コンテンツを特別公開!
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ドイツの名作
死と隣り合わせの愛と官能の世界
トリスタンとイゾルデ
作曲:ワーグナー
原作:ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクの叙事詩『トリスタンとイゾルデ』
台本:ワーグナー(ドイツ語)
初演1865年6月10日/ミュンヘン/バイエルン宮廷歌劇場 構成:3幕/約3時間40分
オペラを超える総合芸術「楽劇」の誕生
この作品のテーマは愛への賛美です。ワーグナー自身が、果たせぬ恋におちていたこともあり、情熱的に創作されました。トリスタン伝説を彼独自の観点で台本にしました。
ワーグナーはこの作品を3幕からなる「劇」と呼んでいます。もうオペラは書かないとまで言わしめたのは、「楽劇」と呼ばれる、音楽、演劇、文学、美術が密接に融合した総合芸術をすでにこの作品で実現するつもりだったからです。
『タンホイザー』から始まった、「無限旋律」と呼ばれる、終わることなく織りなしていくメロディーによって、愛への憧憬と官能性を見事に表現しています。
伝説と台本で大きく違うのは、媚薬を飲む前からトリスタンとイゾルデは愛し合っていたこと。伝説では恋は媚薬からのみもたらされましたが、ここでは単なるきっかけであり、極端にいえば水でも良かったのです。ただ毒薬と思って2人が飲んだというところに大きな意味があり、愛は死と共にある、というのが作品の肝となります。前奏曲で示される、「トリスタンの愛」と「イゾルデの愛」、それをつなぐトリスタン和音。物語はこれを軸に展開していきます。
プロフィール
生名:リヒャルト・ワーグナー
誕生日:1813 年5 月22 日
出身地:ドイツ/ライプツィヒ
死没:1883 年2 月13 日
主なオペラ作品
・さまよえるオランダ人(1843年 ドレスデン)
・タンホイザー(1845年 ドレスデン)
・ローエングリン(1850年 ワイマール)
・トリスタンとイゾルデ(1865年 ミュンヘン)
・ニュルンベルクのマイスタージンガー(1868年 ミュンヘン)
・ニーベルングの指環(1876年 バイロイト)
総合劇術の創始者 オペラを超える楽劇の誕生
ワーグナーはドイツ・オペラに革命をもたらしました。「楽劇」と呼ばれる、文学、音楽、美術などのすべての芸術を統一した総合芸術を生み出しました。
ベートーヴェンの音楽に感化されて音楽家を目指し、ウェーバーの『魔弾の射手』を観て、オペラ作家になることを決めました。ドレスデンでオペラ3作目『リエンツィ』を自らの指揮で成功させたことで、一躍有名に。
標題性によって音楽の形式を壊そうとするワーグナーと、絶対音楽※1の形式を重視するブラームスの方法は、それぞれに支持者を得て当時の音楽界を二分しました。
※1 絶対音楽:情景や、イメージ、物語などの、ある限定したイメージを音楽に与えず、純粋に音だけで鑑賞できる音楽。
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