第28回
反朴第二十八
2019.01.15更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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反朴第二十八
28 人がもともと持っている本質的な価値を知る
【現代語訳】
強い雄の本質を知った上で、弱い雌の立場を守ることができたなら、世界の万物が慕い寄る谿(たにま)、すなわち源泉となる。天下の谿(源泉)となれば、一定不変の徳が身から離れず、純真な赤ん坊の状態にまた戻れることになる。
何ものにも染まらない白の本質を知りながら、混沌とした黒い世界の立場を守ることができたなら、天下の模範となる。天下の模範となれば、一定不変の徳と少しも違うところがなく、極まりのない根源的なもの(「道」)にまた戻れることになる。
輝かしい栄光を知った上で、恥辱の立場を守ることができたら、天下の谷となる。天下の谷となれば、一定不変の徳がその身に満ち足りて、純朴なあら木(加工する前の純木)の状態にまた戻れる。
あら木が分けられると、さまざまな器ができる(さまざまな人材となる)。「道」と一体となっている聖人はこれを用いて、官の長とする。だから本当のよくつくるということは、あら木を細くしない(手を加えない)ことをいうのである。
【読み下し文】
其(そ)の雄(ゆう)を知(し)りて、其(そ)の雌(し)を守(まも)らば、天下(てんか)の谿(けい)(※)と為(な)る。天下(てんか)の谿(けい)と為(な)れば、常(つね)の徳(とく)(※)は離(はな)れず、嬰児(えいじ)に復帰(ふっき)す。
其(そ)の白(はく)を知(し)りて、其(そ)の黒(こく)を守(まも)れば、天下(てんか)の式(しき)(※)と為(な)る。天下(てんか)の式(しき)と為(な)れば、常(つね)の徳(とく)は忒(たが)わず、無極(むきょく)(※)に復帰(ふっき)す。
其(そ)の栄(えい)を知(し)りて、其(そ)の辱(じょく)を守(まも)れば、天下(てんか)の谷(たに)と為(な)る。天下(てんか)の谷(たに)と為(な)れば、常(つね)の徳(とく)は乃(すなわ)ち足(た)り、樸(ぼく)に復帰(ふっき)す。
樸(ぼく)は散(さん)ずれば、則(すなわ)ち器(き)と為(な)る。聖人(せいじん)は、これを用(もち)いて、則(すなわ)ち官(かん)の長(ちょう)(※)と為(な)す。故(ゆえ)に大制(たいせい)(※)は割(さ)かず。
- (※)谿……厳密にははっきりしないが、一応、谿は細くて狭い山あいの谷。谷が大きい川が流れているところと考えられている。
- (※)常の徳……一定不変の徳。絶対不変の徳。體衟第一「常の道」参照。
- (※)式……手本。益謙第二十二参照。
- (※)無極……極まりのない根源的なもの、すなわち「道」を意味する。
- (※)官の長……百官のそれぞれの長とも、百官の長(君主)ともとれる。本書では後者をとった。
- (※)大制……本当のよくつくるということ。「制」とは、ほどよく切って人やものを仕立てていくことをいう。
【原文】
反朴第二十八
知其雄、守其雌、爲天下谿。爲天下谿、常德不離、復歸於嬰兒。
知其白、守其黑、爲天下式。爲天下式、常德不忒、復歸於無極。
知其榮、守其辱、爲天下谷。爲天下谷、常德乃足、復歸於樸。
樸散則爲器。聖人用之、則爲官長。故大制不割。
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