第61回
謙德第六十一
2019.03.04更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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謙德第六十一
61 女性(大国)が静かでへりくだっていれば、必ず男性(小国)は従う
【現代語訳】
大国は、いわば大河の下流である。天下の流れが集まってくるところであり、天下の女性的なものである。女性はいつでも静かで、むやみやたらに動かないことで男性に勝つものである。静かにしていることで、へりくだっているからである。だから大国も小国にへりくだっていれば、小国は帰服するし、小国が大国にへりくだっていれば、大国の信頼(保護)を得ることができる。だからあるものはへりくだって大国への帰服が得られ、あるものはへりくだって大国の信頼(保護)を得られる。大国は人を兼ねて養おうとしているだけであり、小国は大国の下で保護を受けることを望んでいるにすぎない。
すると両者(大国も小国)ともそれぞれ望むところのものを手に入れようと思えば、へりくだることが大切であるが、とりわけ大国がへりくだるべきである。
【読み下し文】
大国(たいこく)は下流(かりゅう)なり。天下(てんか)の交(こう)(※)、天下(てんか)の牝(ひん)なり。牝(ひん)は常(つね)に静(せい)を以(もっ)て牡(ぼ)に勝(か)つ。静(せい)を以(もっ)て下(くだ)ることを為(な)すなり。故(ゆえ)に大国(たいこく)以(もっ)て小国(しょうこく)に下(くだ)れば、則(すなわ)ち小国(しょうこく)を取(と)り、小国(しょうこく)以(もっ)て大国(たいこく)に下(くだ)れば、則(すなわ)ち大国(たいこく)を取(と)る。故(ゆえ)に或(ある)いは下(くだ)りて以(もっ)て取(と)り、或(ある)いは下(くだ)りて而(しか)も取(と)る(※)。大国(たいこく)は人(ひと)を兼(か)ね畜(やしな)わんと欲(ほっ)す(※)るに過(す)ぎず、小国(しょうこく)は入(い)りて人(ひと)に事(つか)えんと欲(ほっ)するに過(す)ぎず。
夫(そ)れ両者(りょうしゃ)、各〻(おのおの)其(そ)の欲(ほっ)する所(ところ)を得(え)んとせば、大(だい)なる者(もの)宜(よろ)しく下(くだ)ることを為(な)すべし。
- (※)天下の交……天下の流れが集まってくるところ。上流からの水が下流に集まってくるように、人が集まってくるところを指す。
- (※)下りて而も取る……「而も」は逆説の意味で、大国に吞み込まれるのではなくて、大国の信頼(保護)を受けられるということ。
- (※)畜わんと欲す……「畜」とは養うこと。
【原文】
謙德第六十一
大國者下流、天下之交、天下之牝。牝常以靜勝牡、以靜爲下。故大國以下小國、則取小國。小國以下大國、則取大國。故或下以取、或下而取。大國不過欲兼畜人、小國不過欲入事人。
夫兩者各得其所欲、大者宜爲下。
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