第6回
13〜15話
2019.12.30更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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13 他人に幸せを与えられる人は幸せに生きることができる
【現代語訳】
狭い小道において混み合うようであったら、自分が一歩よけて人に道を譲る。また、おいしいものをみんなで食べているときは、自分の分を三分ぐらい減らして人に譲る。こうした心がけが、安全で幸せな人生を送る生き方の一つである。
【読み下し文】
径路(けいろ)(※)の窄(せま)き処(ところ)は、一歩(いっぽ)を留(とど)めて人(ひと)の行(ゆ)くに与(あた)え、滋味(じみ)(※)の濃(こま)やかなる的(もの)は、三分(さんぶ)を減(げん)じて人(ひと)の嗜(たしな)むに譲(ゆず)る。此(こ)れは是(こ)れ世(よ)を渉(わた)る一(いつ)の極安楽(ごくあんらく)の法(ほう)なり。
(※)径路……小道。近道。細い道。なお、『論語』に「行(い)くに径(こみち)に由(よ)らず」(雍也第六)とある。私は「径」を「細長い近道」と訳した(拙著『全文完全対照版 論語コンプリート』雍也第六参照)。なお、幸田露件のいわゆる“幸福三説”(「惜福」「分福」「植福」)は本項の考え方に似ている。この考え方については、本書の前集182条参照。
(※)滋味……うまい味。美味。
【原文】
徑路窄處、留一步與人行、滋味濃的、減三分讓人嗜。此是涉世一極安樂法。
14 名誉や利益に惑わされない人は一流である
【現代語訳】
普通の人間に生まれて、何も特別な業績を残す事業をしなくても、名誉や利益などの世俗の欲情を払い除くことができれば、それだけで一流の人といえる。また学問をするにあたって、特別な学識を増やす工夫をしなくても、名誉や利益などの世俗の誘惑に打ち勝つことができれば、それはもう聖人の境地に到達できたといえる。
【読み下し文】
人(ひと)と作(な)りて(※)甚(なん)の高遠(こうえん)の事業(じぎょう)無(な)きも、俗情(ぞくじょう)を擺脱(はいだつ)(※)し得(う)れば、便(すなわ)ち名流(めいりゅう)(※)に入(い)る。学(がく)を為(な)して甚(なん)の増益(ぞうえき)の功夫(くふう)無(な)きも、物累(ぶつるい)(※)を減除(げんじょ)し得(う)れば、便(すなわ)ち聖境(せいきょう)に超(こ)ゆ。
(※)人と作りて……普通の人として生まれ、普通に生きること。
(※)擺脱……払い除くこと。
(※)名流……名工の仲間。一流の人。
(※)物累……名誉や利益などのために束縛され、わずらわされること。なお、本項全体に老子の思想の影響があるように思える(『老子』忘知第四十八など参照)。
【原文】
作人無甚高遠事業、擺脫得俗情、便入名流。爲學無甚增益功夫、減除得物累、便超垩境。
15 侠気(きょうき)のまったくない人、純粋さをすべて失くした人は魅力がない
【現代語訳】
友と交わるには、せめて三分の俠気はあってほしい。人として魅力あるためには、少なくても純粋な一点の本心はなくさないようにしたい。
【読み下し文】
友(とも)に交(まじ)わるには、須(すべか)らく三分(さんぶ)の俠気(きょうき)(※)を帯(お)ぶべし。人(ひと)と作(な)るには、一点(いってん)の素心(そしん)(※)を存(そん)するを要(よう)す。
(※)俠気……強きをくじき弱きを助ける心持ち。義俠心。なお、明治時代の与謝野鉄幹の有名な『人を恋うる歌』では、「友(とも)をえらばば書(しょ)を読(よ)みて六分(りくぶ)の俠気(きょうき)四分(しぶ)の熱(ねつ)」とある。
(※)一点の素心……純粋な心があること。「一点」は、前の「三分」に対応したもので、「まったく……ではなく、少なくても一点は」の意。一点については、前集149条の「点」も参照。
【原文】
交友、須帶三分俠氣。作人、要存一點素心。
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