第9回
22〜24話
2020.01.07更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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22 静かな境地のなかにいて、その上で活力を失わない生き方が良い
【現代語訳】
動くことを好みすぎる者は、雲間に光る稲妻や風前のともしびのように危うい。これに対し、静かさを愛しすぎる者は、あたかも火が消えて冷たくなってしまった灰や枯れてしまった木のように生気がない。流れない雲や留まっているように見える水のような静かな境地のなかで、鳶(とび)が飛び魚が躍り跳ねるような活力があるべきだ。こうあるのが、本当に道を修得した人の姿である。
【読み下し文】
動(どう)を好(この)む者(もの)は、雲電風燈(うんでんふうとう)(※)、寂(じゃく)を嗜(たしな)む者(もの)は、死灰(しかい)槁木(こうぼく)(※)なり。須(すべか)らく定雲止水(ていうんしすい)の中(なか)に、鳶(とび)飛(と)び魚(うお)躍(おど)る(※)の気象(きしょう)(※) 有(あ)るべくして、纔(わず)かに是(こ)れ有道(ゆうどう)の心体(しんたい)なり。
(※)雲電風燈……雲の間から漏れてくる電光や風にゆらぐ燈火。常に動いていて危ういことの形容。
(※)死灰槁木……火の気がなくなって冷たくなってしまった灰や枯れてしまった木。情熱や活力のないことの形容。
(※)鳶飛び魚躍る……鳶が空を飛び、魚が躍り跳ねるような活力がある状態。『詩経』に「鳶(とび)飛(と)んで天(てん)に戻(もど)り、魚淵(うおふち)に躍(おど)る」とあり、『中庸』にも引用されている。なお、本書の後集66条にも出てくる。なお、後集14条も参照。
(※)気象……気質。
【原文】
好動者、雲電風燈、嗜寂者、死灰槁木。須定雲止水中、有鳶飛魚躍氣象、纔是有衜的心體。
23 他人への忠告はよく考えてする
【現代語訳】
人の悪を責めるときは、厳しすぎないようにし、相手が受け入れられる程度を考えてするべきである。また、人を教えて善い行いをさせるにも、あまり高すぎる目標を与えないで、相手が実行できる範囲にすべきである。
【読み下し文】
人(ひと)の悪(あく)を攻(せ)むるは、太(はなは)だ厳(げん)なること毋(な)かれ(※)、その受(う)くるに堪(た)えんことを思(おも)うを要(よう)す。人(ひと)を教(おし)うるに善(ぜん)を以(もっ)てするは、高(たか)きに過(す)ぐること毋(な)かれ、当(まさ)に其(そ)れをして従(したが)うべからしむべし。
(※)太だ厳なること毋かれ……あまり厳しすぎてはならない。なお〝佐賀鍋島藩の論語〟と呼ばれた『葉隠』は、相手のことを思いやらない厳しすぎる他人への忠告について「何(なに)の益(やく)にも立(た)たず。人(ひと)に恥(はじ)をかかせ、悪口(わるぐち)すると同(おな)じ事(こと)也(なり)。我(わ)が胸(むね)はらしに云(い)う迄(まで)也(なり)」(聞書第一)という。本家の『論語』では、孔子は友へは「忠告(ちゅうこく)して善(よ)く之(これ)を道(みちび)く。可(き)かれざれば則(すなわ)ち止(や)む。自(みずか)ら辱(はずかし)めらるる無(な)かれ」(顔淵第十二)とわりにあっさりしている。ただ一方で「人(ひと)を誨(おし)えて倦(う)まず」(述而第七)としており、学ぶ意欲、向上心のある者にはねばり強く忠告していたようだ。『菜根譚』の本項の対応法は、こうした古典からも納得のいくところである。ただし、吉田松陰は、「君子(くんし)の心(こころ)は天(てん)の如(ごと)し。怨怒(えんど)する所(ところ)あれば雷霆(らいてい)の怒(いかり)を発(はっ)する所(ところ)あれども、其(そ)の事(こと)解(と)くるに至(いた)りては又(また)天晴日明(てんせいにちめい)なる如(ごと)く、一毫(いちごう)も心中(しんちゅう)に残(のこ)す所(ところ)なし」(『講孟箚記』)と総じ、真心一本の人らしいことを述べている。
【原文】
攻人之惡、毋太嚴、要思其堪受。敎人以善、毋過高、當使其可從。
24 光明は暗闇から生まれてくる
【現代語訳】
糞土(ふんど)に生まれるうじ虫はとても汚いものであるが、成長してセミになれば、清い露を飲んで秋風に鳴く。腐った草に光はないが、そこからホタルが生まれ、夏の月夜に光を放つ。このように潔いものは常に汚いものから生じ、光明も常に闇夜から生まれてくるのである。
【読み下し文】
糞虫(ふんちゅう)(※)は至穢(しわい)(※)なるも、変(へん)じて蟬(せみ)となりて露(つゆ)を秋風(しゅうふう)に飲(の)む。腐草(ふそう)は光(ひかり)無(な)きも、化(か)して蛍(ほたる)と為(な)りて采(さい)(※)を夏月(かげつ)に耀(かがや)かす。固(まこと)に知(し)る、潔(けつ)は常(つね)に汚(お)より出(い)で、明(めい)は毎(つね)に晦(かい)より生(しょう)ずるを。
(※)糞虫……糞土に生じるうじ虫。ここではセミの幼虫。なお、古代中国ではセミやホタルは、極めて汚いものから生まれてくると考えられていた。ここから本項では、人間もどんな逆境からも光り輝く人となれることを言っている。
(※)至穢……とても汚い。
(※)采……光。光彩。
【原文】
糞蟲至穢、變爲蟬而飮露於秋風。腐草無光、化爲螢而耀采於夏月。固知、洯常自汚出、明每從晦生也。
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