Facebook
Twitter
RSS

第10回

25〜27話

2020.01.08更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

25 いきすぎた欲望や打算を消し去りたい

【現代語訳】
自らを誇り高ぶり他人を見下す心は、自分の実力からくる本当の元気ではなく、借りものの空(から)元気から生まれる。このような借りもののニセの元気を抑えることができると、自分の心からくる本当の勇気が出て伸びてくる。また、情愛などのさまざまな欲望や打算は、すべて迷いの心から出てくる。こうした迷いの心をすべて消し去ることができれば、真心や本当の自分の心が現れる。

【読み下し文】
矜高倨傲(きょうこうきょごう)(※)は、客気(かっき)(※)に非(あら)ざるは無(な)し。客気(かっき)を降伏(こうふく)し得(え)下(くだ)して(※)、而(しか)る後(のち)に正気(しょうき)(※)は伸(の)ぶ。情欲(じょうよく)意識(いしき)は尽(ことごと)く妄心(もうしん)(※)に属(ぞく)す。妄心(もうしん)を消殺(しょうさつ)(※)し得(え)尽(つ)くして、而(しか)る後(のち)に真心(しんしん)は現(あらわ)る。

(※)矜高倨傲……自らを誇り高ぶり、他人を見下すこと。
(※)客気……借りものの空元気。
(※)降伏し得下して……抑えることができること。「得下して」は、「……することができる」の意。
(※)正気……ここでは自分の心からくる本当の勇気。本来の自分の気。なお、正気の解釈については、本書の前集37条も参照。
(※)妄心……迷いの心、妄念・妄想・迷心。
(※)消殺……消し去ること。

【原文】
矜高倨傲、無非客氣。降伏得客氣下、而後正氣伸。情欲意識、盡屬妄心。消殺得妄心盡、而後眞心現。

26 事後の悔恨を考えて行動できれば誤らない


【現代語訳】
満腹の後になって、味のことを思ってみると、うまい・まずいの区別はどうでもよくなる(よくわからなくなる)。情事を行った直後では、男女の色欲のことを思っても、もはやその欲は消えている。だから、人は常に、そのことが終わった後の悔恨を考えて行動すれば、愚かな心の迷いを除けられて本心もよく定まり、誤りのない行動をとることができよう。

【読み下し文】
飽後(ほうご)に味(あじ)を思(おも)えば、則(すなわ)ち濃淡(のうたん)の境(きょう)(※)都(すべ)て消(き)え、色後(しきご)(※)に婬(いん)を思(おも)えば、則(すなわ)ち男女(だんじょ)の見(けん)(※)尽(ことごと)く絶(た)ゆ。故(ゆえ)に人(ひと)常(つね)に事後(じご)の悔悟(かいご)(※)を以(もっ)て、事(こと)に臨(のぞ)むの痴迷(ちめい)(※)を破(やぶ)らば、則(すなわ)ち性(せい)定(さだ)まりて動(うご)くこと正(ただ)しからざるは無(な)し。

(※)濃淡の境……濃味(美味)と淡味(まずい味)の区別。
(※)色後……情事の後。
(※)男女の見……男女がお互い求める志向。
(※)悔悟……悔恨。あと味の悪さ。
(※)痴迷……愚かな迷い。本項の解釈については、前集109条、後集57条も参照。

【原文】
飽後思味、則濃淡之境都消、色後思婬、則男女之見盡絕。故人常以事後之悔悟、破臨事之痴迷、則性定而動無不正。

27 地位に流されず、いつも確かな自分を持っていたい

【現代語訳】
どんなに高い地位にあっても、心のなかには、山林に隠遁しているような趣があってほしい(さもないと地位、権力にしがみついているようでみっともないし、間違いを起こすことになりかねない)。逆に、第一線を退いて田舎の自然のなかで住み暮らしていても、天下国家のことを考えていたい(さもないと枯れすぎて、非社会的な人間になってしまいかねない)。

【読み下し文】
軒冕(けんべん)(※)の中(なか)に居(お)りては、山林(さんりん)の気味(きみ)(※) 無(な)かるべからず。林泉(りんせん)の下(もと)に処(お)りては、須(すべか)らく廊廟(ろうびょう)の経綸(けいりん)(※)を懐(いだ)くを要(よう)すべし。

(※)軒冕……「軒」は大夫以上の貴人の乗り物。「冕」はやはり大夫以上の高官の冠のこと。以上から高位高官を指す。
(※)山林の気味……役を退き山林に隠遁したときの趣。
(※)廊廟の経綸……朝廷に出仕して、国政に加わること。ここでは、天下国家のことを考えること。「廊廟」は朝廷、「経綸」は国家を治めることをいう。

【原文】
居軒冕之中、不可無山林的氣味。處林泉之下、須要懷廊廟的經綸。

「目次」はこちら

【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印