第26回
73〜75話
2020.01.31更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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73 欲望の道は、もがき苦しむことになる
【現代語訳】
真理の道は大変広いものであり、少しこの道で心を遊ばせてみただけで、気持ちがのびのびとし、ほがらかになる。これに対して、欲望の道はとても狭いものであり、一歩踏み込んだら、いばらやぬかるみで、もがき苦しむことになる。
【読み下し文】
天理(てんり)の路上(ろじょう)(※)は甚(はなは)だ寛(ひろ)く、稍(やや)心(こころ)を遊(あそ)ばしめば(※)、胸中(きょうちゅう)便(すなわ)ち広大(こうだい)宏朗(こうろう)なるを覚(おぼ)ゆ。人欲(じんよく)の路上(ろじょう)(※)は甚(はなは)だ窄(せま)く、纔(わず)かに迹(あと)を寄(よ)すれば、眼前(がんぜん)俱(とも)に是(こ)れ荊棘(けいきょく)(※)泥塗(でいと)(※)なり。
(※)天理の路上……真理の道。
(※)稍心を遊ばしめば……少し心を遊ばせる。なお、『荘子』に孔子の言葉として「夫(そ)れ物(もの)に乗(じょう)じて以(もっ)て心(こころ)を遊(あそ)ばせ、已(や)むを得(え)ざるに託(たく)して、以(もっ)て中(ちゅう)を養(やしな)えば至(いた)れり」(人間世篇)が述べてある。ここで「中」とは、『中庸』のことを指していると思われる。
(※)人欲の路上……欲望の道。
(※)荊棘……いばら。
(※)泥塗……ぬかるみ。
【原文】
天理路上甚寛、稍遊心、胸中便覺廣大宏朗。人欲路上甚窄、纔寄迹、眼歬俱是荊棘泥塗。
74 苦心を重ねて考え抜いた知識、知恵が本物となる
【現代語訳】
苦しんだり楽しんだりして修業を重ね、その果てに築いた幸福は長く続く。また、疑ったり信じたりしながらも、苦心を重ね比べ考え抜いた知識、知恵であれば、それは本物となる。
【読み下し文】
一苦一楽(いっくいちらく)(※)、相磨練(あいまれん)(※)し、練(れん)極(きわ)まりて福(ふく)を成(な)すものは、その福(ふく)始(はじ)めて久(ひさ)し。一疑一信(いちぎいっしん)、相参勘(あいさんかん)(※)し、勘(かん)極(きわ)まりて知(ち)を成(な)すものは、その知(ち)始(はじ)めて真(しん)なり。
(※)一苦一楽……苦しんだり、楽しんだりすること。
(※)相磨練……修業を重ね。ねりみがいて。
(※)参勘……比べて考え抜く。本項の解釈については、『論語』の陽貨第十七にも、「道(みち)すがら聴(き)きて、塗(みち)すがら説(と)くは、徳(とく)を之(こ)れ棄(す)つるなり」とある。いわゆる「道聴途説(どうちょうとせつ)」。本項の解釈については、前集216条参照。
【原文】
一苦一樂相磨練、練極而成福者、其福始久。一疑一信相參勘、勘極而成知者、其知始眞。
75 心は柔軟でありながら、向上心で充実しているのが良い
【現代語訳】
心は柔軟・空虚にしておくべきであり、先入観でいっぱいにしてはならない。そうすると、義理(正しい教えと生き方)が自然に入ってくる。と同時に、心はいつも向上心で充実させておかねばならない。そうすると、物欲などの余計なものが入ってこなくなる。
【読み下し文】
心(こころ)は虚(きょ)(※)ならざるべからず虚(きょ)ならば則(すなわ)ち義理(ぎり)(※) 来(き)たり居(お)る。心(こころ)は実(じつ)ならざるべからず、実(じつ)なれば則(すなわ)ち物欲(ぶつよく)は入(い)らず。
(※)虚……空虚。邪心がない状態。
(※)義理……正しい教えと生き方。正しい道理。以上が本来の義理の意味である。ただし、後に日本では新渡戸稲造が『武士道』で指摘するように、世俗の言葉としても使われるようになった。すなわち、「世論か責任を果たすことを期待する漠然とした義務感」を意味するようになった。
【原文】
心不可不虛、虛則義理來居。心不可不實、實則物欲不入。
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