第29回
82〜84話
2020.02.05更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら
82 過ぎ去ったことに執着しない
【現代語訳】
風が起き、まばらな竹やぶに当たると竹の葉は鳴るが、風が吹きやめばもとの静けさに戻る。雁が寒い湖の上を飛んでいくとき、湖の淵にその姿を映すが、飛び去ってしまえば影はなくなってしまう。このように君子は、事が起きて初めてそれに対応する心が現れるが、事が去ってしまえばもとに戻り、その事に執着することはない。
【読み下し文】
風(かぜ)、疎竹(そちく)(※)に来(き)たる、風(かぜ)過(す)ぎて竹(たけ)は声(こえ)を留(とど)めず。雁(かり)、寒潭(かんたん)(※)を度(わた)る、雁(かり)去(さ)って潭(ふち)は影(かげ)を留(とど)めず。故(ゆえ)に君子(くんし)は事(こと)来(き)たって心(こころ)始(はじ)めて現(あらわ)れ、事(こと)去(さ)って心(こころ)随(したがっ)て空(むな)し。
(※)疎竹……まばらに生えた竹。
(※)寒潭……水が冷たく澄み切った淵。
【原文】
風來疎竹、風過而竹不留聲。雁度寒潭、雁去而潭不留影。故君子事來而心始現、事去而心隨空。
83 甘すぎず、辛すぎず
【現代語訳】
性格は清廉であるが、包容力があり、相手を思いやれるが、決断力にも優れている。また聡明であるが、人のあら探しはせず、正直ではあるが、他人の行為にはやかましく言わない。こういう人を、蜜の入った食べ物でも甘すぎることがなく、海産物でも塩辛すぎないというのである。これこそが本当の美徳を備えた人格者といえる。
【読み下し文】
清(せい)にして能(よ)く容(い)るること有(あ)り、仁(じん)にして能(よ)く断(だん)を善(よ)くす。明(めい)にして察(さつ)を傷(きず)つけず。直(ちょく)にして矯(きょう)に過(す)ぎず。是(こ)れを蜜餞(みつせん)(※)甜(あま)からず、海味(かいみ)(※)醎(から)からずと謂(い)う。纔(わず)かに是(これ)懿徳(いとく)(※)なり。
(※)蜜餞……蜜が入った甘いお菓子。
(※)海味……海産物。
(※)懿徳……美徳。
【原文】
淸能有容、仁能善斷。明不傷察、直不過矯。是謂蜜餞不甜、海味不醎。纔是懿德。
84 どんなに困窮し失意に陥っても、投げやりになってはいけない
【現代語訳】
みすぼらしい家でも庭先を掃除し、貧しい女性であってもきれいに髪をとかしていれば、外見は華やかで美しいとは言えなくても、品格ある趣はあるものだ。士君子たる者も同じである。たとえ、どんなに困窮し失意に陥ろうともヤケを起こし、投げやりになってはいけない。
【読み下し文】
貧家(ひんか)も浄(きよ)く地(ち)を払(はら)い、貧女(ひんじょ)も浄(きよ)く頭(あたま)を梳(くしけず)れば、景色(けいしょく)は艶麗(えんれい)ならずと雖(いえど)も、気度(きど)(※)は自(おの)ずから是(こ)れ風雅(ふうが)なり。士(し)君子(くんし)(※)、一(ひと)たび窮愁(きゅうしゅう)(※)寥落(りょうらく)(※)に当(あ)たるも、奈何(いかん)ぞ輙(すなわ)ち(※)自(みずか)ら廃弛(はいし)(※)せんや。
(※)気度……品格。気品。
(※)士君子……本書の前集60条参照。
(※)窮愁……困窮して憂う。
(※)寥落……失意。
(※)輙ち……それですぐ。
(※)廃弛……投げやりになること。自暴自棄(孟子の言葉)。宗教改革者であったドイツのマルティン・ルターはこう述べる。「たとえ明日、世界が滅びようとも、私はリンゴの木を植える」。この決してめげずにあきらめない心を本項も伝えている。
【原文】
貧家淨拂地、貧女淨梳頭、景色雖不艷麗、氣度自是風雅。士君子、一當窮愁寥落、奈何輒自廢弛哉。
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く