第33回
94〜96話
2020.02.12更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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94 先祖に感謝し、子孫のためにがんばる
【現代語訳】
先祖の残してくれている恩恵は何であろうか。それは、現在、私が享受しているすべてのものである。長い間かけて苦労して残してくれた先祖のありがたみに、感謝しなければならない。では、子孫の受ける幸福とは何か。それは、現在、私たちががんばって残していくものによる。それらが崩れるのはたやすいものであろうから、しっかりとつくっておかねばならない。
【読み下し文】
祖宗(そそう)(※)の徳沢(とくたく)(※)を問(と)わば、吾(わ)が身(み)の享(う)くる所(ところ)のもの是(こ)れなり。当(まさ)に其(そ)の積累(せきるい)(※)の難(かた)きを念(おも)うべし。子孫(しそん)の福祉(ふくし)を問(と)わば、吾(われ)が身(み)の貽(のこす)す所(ところ)のもの是(こ)れなり。其(そ)の傾覆(けいふく)の易(やす)きを思(おも)うを要(よう)す。
(※)祖宗……先祖。
(※)徳沢……恩恵。
(※)積累……積み重ねる。なお、『昜経』にも「積善(せきぜん)の家(いえ)には必(かなら)ず余(よ)慶(けい)あり。積(せき)不善(ふぜん)の家(いえ)には必(かなら)ず余殃(よおう)あり」とある。
【原文】
問祖宗之德澤、吾身所享者是。當念其積累之難。問子孫之福祉、吾身所貽者是。要思其傾覆之易。
95 立派な人格者である君子は常に自分を戒めるべきである
【現代語訳】
いつも立派な人格者であるべき君子が、偽善をはたらくのは、つまらない小人が悪事を重ねるのと変わらない。立派な人格者であると思われている君子が、変節してしまうのは、つまらない小人が悪を改めて正しく生きることに比べ、はるかに始末が悪い。
【読み下し文】
君子(くんし)にして善(ぜん)を詐(いつわ)るは、小人(しょうじん)の悪(あく)を肆(ほしいまま)にするに異(こと)なること無(な)し。君子(くんし)にして節(せつ)を改(あらた)むる(※)は、小人(しょうじん)の自(みずか)ら新(あら)たにする(※)に及(およ)ばす。
(※)節を改むる……節操を変える。変節する。
(※)自ら新たにする……自発的に自分を改め正しく生きる。
【原文】
君子而詐善、無異小人之肆惡。君子而改節、不及小人之自新。
96 家庭の良さはなごやかで温かいところにある
【現代語訳】
家族の者が過ちを犯したとき、声を荒(あら)げて激しく怒るべきではない。かといって知らんぷりするのもよくない。もし言いにくいことがあれば、他のことにかこつけて戒めるのが良い。それでもわかってくれないときには、時間をおいて別の機会に注意を促したい。ちょうど春の風が凍りついた大池を溶かし、なごやかで暖かい空気が氷を溶かすようにするのだ。これが家庭での良い形(模範)であろう。
【読み下し文】
家人(かじん)、過(あやまち)有(あ)らば、宜(よろ)しく暴怒(ぼうど)すべからず、宜(よろ)しく軽棄(けいき)すべからず。此(こ)の事(こと)言(い)い難(がた)くば、他(た)の事(こと)を借(か)りて隠(いん)に之(これ)を諷(ふう)(※)せよ。今日(こんにち)悟(さと)らざれば、来日(らいじつ)を俟(ま)ちて再(ふたた)び之(これ)を警(いまし)めよ。春風(しゅんぷう)の凍(こお)れるを解(と)く(※)が如(ごと)く、和(わ)気(き)の氷(こおり)を消(け)すが如(ごと)くにして、纔(わず)かに是(こ)れ家庭(かてい)の型範(けいはん)(※)なり。
(※)諷……他のことにかこつけて言う。それとなく言う。
(※)春風の凍れるを解く……春の風が凍りついた大池を溶かす。他人へのアドバイスの仕方については本書の前集23条参照。なお、『論語』は、親への忠告について次のように述べている。「父母(ふぼ)に事(つか)うるには幾(き)諫(かん)す。志(し)の従(したが)わざるを見(み)ては又(また)敬(けい)して違(たが)わず。労(ろう)して怨(うら)みず」(里仁第四)。「幾諫」とは、角が立たぬように諫(いさ)めることをいう(拙著『全文完全対照版 論語コンプリート』参照)。
(※)型範……良い形。模範。家庭の良さについては、本書の前集21条参照。
【原文】
家人有過、不宜暴怒、不宜輕棄。此事難言、借他事隱諷之。今日不悟、俟來日再警之。如春風解凍、如和氣消氷、纔是家庭的型範。
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