第46回
133〜135話
2020.03.03更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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133 肉親の愛情は自然に出るのが良い
【現代語訳】
親は子をいつくしみ、子は親に孝を尽くし、兄、姉は弟、妹をいたわり、弟、妹は兄、姉をうやまう。これが理想的なほどにできていたとしても、肉親としては当然のことである。いろいろ感謝したり感謝されたりしないでも、自然に出るようにし、少しも恩着せがましい心を持ってはいけない。もし、お互いにいちいち恩や徳を感じるようなものになれば、他人と変わらなくなる。あたかも商売人が取り引きをしているのと変わらなくなる。
【読み下し文】
父(ちち)は慈(じ)に子(こ)は孝(こう)に、兄(あに)は友(ゆう)に弟(おとうと)は恭(きょう)に、縦(たと)い極処(きょくしょ)に做(な)し到(いた)る(※)も、俱(とも)に是(こ)れ合当(まさ)(※)に此(かく)の如(ごと)くなるべし。一毫(いちごう)の感激(かんげき)の念頭(ねんとう)を着(つ)け得(え)ず。如(も)し施(ほどこ)す者(もの)は徳(とく)に任(にん)じ、受(う)くる者(もの)は恩(おん)を懐(おも)わば、便(すなわ)ち是(こ)れ路人(ろじん)(※)、便(すなわ)ち市道(しどう)(※)と成(な)らん。
(※)極処に做し到る……理想的なほどにできている。
(※)合当……当然。当たり前。
(※)路人……他人。行路の人。
(※)市道……商売人の取り引き。世間の道。ただし、本項の立場に対して日本では「親しき仲にも礼儀あり」といわれ、親子や兄弟であっても感謝の意の態度は、人情としても見せたほうが良いとする考えがある。このあたりは中国、朝鮮また西洋などの諸外国との微妙な違いがあって面白い。
【原文】
父慈子孝、兄友弟恭、縱做到極處、俱是合當如此、着不得一毫感激的念頭。 如施者任德、受者懐恩、便是路人、便成市衜矣。
134 美しさや清さを他人に誇ると良くない
【現代語訳】
美しいものがあれば、必ず醜(みにく)いものがあり、これは対をなしている。だから、私が美しいことを自慢しなければ、誰も私のことを醜いとは言わない。また、清いものがあれば、必ず汚いものがある。だから、私が清いことにこだわらなければ、誰も私のことを汚そうとしない。
【読み下し文】
姸(けん)有(あ)れば、必(かなら)ず醜(しゅう)有(あ)りて(※)之(これ)が対(たい)を為(な)す。我(われ)、姸(けん)に誇(ほこ)らざれば、誰(だれ)か能(よ)く我(われ)を醜(しゅう)とせん。潔(けつ)有(あ)れば、必(かなら)ず汚(お)有(あ)りて之(これ)が仇(きゅう)(※)を為(な)す。我(われ)、潔(けつ)を好(この)まざれば、誰(だれ)か能(よ)く我(われ)を汚(よ)ごさん。
(※)姸有れば、必ず醜有りて……美しいものがあれば必ず醜いものがある。「姸」と「醜」は対をなすとする。後では「潔」と「汚」が対をなすとする。なお、『老子』の養身第二は、「天下(てんか)皆(みな)美(び)たるを知(し)るも、斯(こ)れ悪(あ)なる已(のみ)。皆(みな)善(ぜん)の善(ぜん)たるを知(し)るも、斯(こ)れ不善(ふぜん)なる已(のみ)」とし、本項の考え方をさらに一歩進めて、対とある価値の相対的なことを述べている。
(※)仇……対の意。
【原文】
有姸、必有醜爲之對。我不誇姸、誰能醜我。有洯、必有汚爲之仇。我不好洯、誰能汚我。
135 肉親同士ほどねたみやそねむ心が激しくなりやすい
【現代語訳】
人に対しての接し方や態度の変わり方は、貧乏人よりも金持ちや権力者のほうが激しい。ねたみそねみの心は、他人とより肉親同士のほうがひどいものがある。これらに対しては、冷静で穏やかな気持ちで対処していかないと、毎日をつまらない悩みと苦しみのなかで過ごしていかねばならなくなる。
【読み下し文】
炎涼(えんりょう)の態(たい)(※)は、富貴(ふうき)更(さら)に貧賤(ひんせん)よりも甚(はなはだ)しく、妬忌(とき)(※)の心(こころ)は、骨肉(こつにく)尤(もっと)も外人(がいじん)よりも很(はなはだ)し。此(こ)の処(ところ)若(も)し当(あ)たるに冷腸(れいちょう)(※)を以(もっ)てし、御(ぎょ)するに平気(へいき)を以(もっ)てせざれば、日(ひ)に煩悩障(ぼんのうしょう)(※)中(ちゅう)に坐(ざ)せざること鮮(すくな)からん。
(※)炎涼の態……人に対しての接し方や態度の変わり方。人情の温かさと冷たさの変化。なお、『論語』は「貧(ひん)にして怨(うら)む無(な)きは難(かた)く、富(と)みて驕(おご)る無(な)きは易(やす)し」(憲問第十四)とする。お金持ちは徳を少しでもわきまえることで、おごらなくなるというが、この徳を身につけるのが難しい。『菜根譚』の指摘が正しいのではないか。ただし、『孟子』も孔子と似て「恒産(こうさん)無(な)くして恒心(こうしん)有(あ)る者(もの)は、惟士(ただし)のみ能(よ)くすと為(な)す」(梁恵王上篇)としている。
(※)妬忌……ねたみそねむ心。顔色に表れるのを「妬」、行動に表れるのを「忌」という。
(※)冷腸……冷静な心。
(※)煩悩障……つまらない悩みと苦しみのなか。もろもろの煩悩が心を悩ませ苦しませること。
【原文】
炎涼之態、富貴更甚於貧賤、妬忌之心、骨肉尤很於外人。此處若不當以冷腸、御以平氣、鮮不日坐煩惱障中矣。
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