第47回
136〜138話
2020.03.04更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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136 組織においては信賞必罰(しんしょうひつばつ)を旨とし、えこひいきはあってはならない
【現代語訳】
部下の功績と過失は、しっかりと正しく評価しなくてはならない。いい加減だとみんなは、やる気をなくしてしまう。また、個人的な恩と仇を組織に持ち込んではならない。すなわち、部下の性格的な好き嫌いをもって組織を動かしてはならない。それが出ると、組織は力を発揮できず、まとまりにも欠けるようになるだろう。
【読み下し文】
功過(こうか)(※)は少(すこ)しも混(こん)ず容(べ)からず。混(こん)すれば則(すなわ)ち人(ひと)、惰堕(だき)(※)の心(こころ)壊(いだ)かん。恩仇(おんきゅう)は太(はなは)だ明(あき)らかにすべからず。明(あき)らかなれば則(すなわ)ち人(ひと)、携弐(けいじ)(※)の志(こころざし)を起(お)こさん。
(※)功過……功績と過失。※なお、『孫子』は「之(これ)を令(れい)するに文(ぶん)を以(もっ)てし、之(これ)を斉(との)うるに武(ぶ)を以(もっ)てす」(行軍篇)という。ここでは、「文」は徳(道義と愛情)で、「武」は法令のことを指す。「令(れい)素(もと)より行(おこな)われ」(同上)ることが、強い組織(軍隊)のあり方であるとする。すなわち、部下の功績と過失を正しく評価する必要があることを述べているのは、本項と同じ趣旨である。
(※)惰堕……やる気をなくす。なまけ怠る。
(※)携弐……まとまらない。離れそむく。
【原文】
功過不容少混。混則人懐惰墮之心。恩仇不可太明。明則人起携貳之志。
137 昇りつめない、出し尽くさない、高尚すぎない
【現代語訳】
地位は上がりすぎないほうが良い。上がりすぎると、ねたまれて引きずり下ろされる危険がある。得意な才能は出し尽くさないほうが良い。出し尽くすと、その効果も薄くなり衰えていくことになる。立派な行いも高尚すぎないほうが良い。高尚すぎると、かえって嫌われ非難される。
【読み下し文】
爵位(しゃくい)は宜(よろ)しく太(はなは)だ盛(さか)んなるべからず。太(はなは)だ盛(さか)んなれば則(すなわ)ち危(あやう)し。能事(のうじ)(※)は宜(よろ)しく尽(ことごと)く畢(お)わるべからず。尽(ことごと)く畢(おわ)れば(※)則(すなわ)ち衰(おとろ)う。行誼(こうぎ)は宜(よろ)しく過(す)ぎて高(たか)かるべからず。過(す)ぎて高(たか)ければ則(すなわ)ち謗(ぼう)興(おこ)りて毀来(きき)たる(※)。
(※)能事……得意な才能。
(※)尽く畢れば……出し尽くせば。なお、『論語』で孔子は、「二三子(にさんし)は我(われ)を以(もっ)て隠(かく)すと為(な)すか。吾(われ)爾(なんじ)に隠(かく)すこと無(な)し」(述而第七)という。一方、『老子』は、「善者(ぜんしゃ)は果(な)すのみ。以(もっ)て強(つよ)きを取(と)らず」「物(もの)は壮(さかん)なれば則(すなわ)ち老(お)ゆ」(儉武第三十)とする。以上からすると本項は、老子の考え方に近いといえよう。本項の解釈については、本書の前集30条、154条も参照。
(※)謗興りて毀来たる……嫌われ非難される。「謗」も「毀」も、そしるの意。
【原文】
爵位不宜太盛。太盛則危。能事不宜盡畢。盡畢則衰。行誼不宜過高。過高則謗興而毀來。
138 人にわからない善行は効果が大きい
【現代語訳】
悪は陰を嫌い、善は陽を嫌う。したがって人にわかる、いわば陽の悪事は大した禍いにならないが、人にわからない、いわば陰の悪事は禍いも大きくなる。また、人にわかる陽の善行は小さな効果しかないが、人にわからない陰の善行は効果が大きい。
【読み下し文】
悪(あく)は陰(いん)を忌(い)み、善(ぜん)は陽(よう)を忌(い)む。故(ゆえ)に悪(あく)の顕(あら)われたる者(もの)は、禍(わざわ)い浅(あさ)くして、隱(かく)れたる者(もの)は禍(わざわ)い深(ふか)し。善(ぜん)の顕(あら)われたる者(もの)は功(こう)(※)小(しょう)にして、隠(かく)れたる者(もの)は功(こう)大(だい)なり。
(※)功……効果。
【原文】
惡忌陰、善忌陽。故惡之顯者禍淺、而隱者禍深。善之顯者功小、而隱者功大。
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